部屋
チカチカ
第1話 辞令
○○ ○○
右の者、本年10月16日付けをもって△△支店□□主任を命ずる。
―それは、突然の辞令だった。
△△支店の主任が揉め事を起こして、そのあげく、急に仕事に来なくなったという噂は聞いていた。
しかし、まさか私が後任者に選ばれるとは。
△△支店は数ある支店の中でもそれなりに大規模であり、そこの□□主任といえば、支店の中核となるポジションの一つだ。当然、それなりに年齢や経験を積んだ人物が選ばれる。
私は年齢も経験も足りていないが、いいのだろうか。
「○○くん、急な話でびっくりしただろう」
呆然と辞令を見ていた私に、背後から部長が話し掛けてきた。
「部長。私でいいんでしょうか。私では、力不足だと思うのですが・・・・・・」
戸惑いながらそう呟いた私の肩を部長はポンっと叩きながら、
「君なら、大丈夫だ。確かにあそこの主任をするには少々早いが、君はこの支店でたくさんの案件を片付けてきた。人事部もその功績を買っての抜擢だというのだから、むしろ自信を持って頑張りなさい」
と笑いながら言った。
部長のその言葉を気恥ずかしく感じながらも、私は、よし、いっちょやるか、という気持ちになったのだった。
――まるで、マンションだな。いや、マンションには違いないが。
辞令から1か月後、私は△△支店に異動し、それとともにそれまで住んでいた賃貸を引き払って、△△支店が社宅として借り上げているマンションに引っ越すこととなった。
それにしても、これまで社宅には何度か住んでいるが、ここは特別だな。
対面式のキッチン。ウォークインクローゼット。オートロックインターホン。
シャワー付き洗面台。風呂は当然自動湯沸かし式だが、これまで住んだどの部屋よりも広いバス。
部屋はリビングを含めて4部屋もあり、単身者にはむしろ分不相応だろうに。
いやはや、至れり尽くせりだ。
ただ、一つ気になることといえば、室内が妙に暗いことだ。
私はベランダに出る窓を開けた。
見渡す限りのマンション、マンション、マンション。
ここは地方都市の中心部、近年は集合住宅の開発地として次々と高層マンションが建築されている。今も、少し離れたところでタワーマンションが建築中だ。
四方八方を高層マンションに囲まれているせいなのか、太陽は照っているというのに、日光はベランダの一部にしか届いていない。
これは洗濯物が乾かないな。日中も照明を点けていないとだめそうだ。電気代がいくらかかることやら。
しかし、社宅扱いということで、普通の賃貸に住むよりもずっと安価で暮らせるだから、よしとするか。
私はため息をつきながら、引っ越し荷物の段ボール箱の山を見つめた。
どうにも疲れた。今日のところは、寝る場所を確保することにして、あとは休日においおい片付けるか。
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