第12話
目的のアウトレットモールは二つ先の駅の目の前にある。男性用女性用問わず服を取り扱い店が多いが、衣料品店以外にも眼鏡屋、おもちゃ屋、レストランも立ち並ぶ。
「さすがに人は少ないな」
「ですね。平日昼間ですし。のんびり歩けますね」
「すごい! こんなのお店がいっぱい! ね、ね、早くいきましょう!」
メインストリートは広く、三人が横に並んで歩いても邪魔にならないほど人も少ない。司とひなたの手を引いて今にも走り出しそうな美也孤を抑えつつ、ゆっくりとお店を眺めていく。
「司さんはどんなものを見たいですか?」
「え、いや俺は特に考えてないかな」
「ふぅん……なら荷物持ちになりますが、先輩はそれでいいんですか?」
「まぁ、ここまで来たんだから付き合うよ。気が向いたら自分のも見てみるさ」
「じゃあ遠慮なく頼りにしまーす」
お店に並ぶのは主に冬物の服が多い。アウトレットモールということもあって、時期が遅れた服が多いのだろう。コートやダウンが店頭に飾られ、マフラーや手袋も目に付く。
だが、司にわかるのは服の季節感のみ。女性ものの流行などまったくわからない。時折、男性モノの服を見てみるが、必要性を考えると試着もせずに棚に戻してばかりだ。
必然的に美也孤とひなたの後をついていくだけになる。
「これ、美也孤さん似合うんじゃないですか?」
「あ、かわいー! それにあったかそう」
「うーん、やっぱり美也孤さんは暖色系が似合いますね」
「あ、これ! この帽子とかひなたちゃんに合いそう!」
目についた店に入ってはあれやこれやと手に取って合わせてみる。二人は春物と冬物問わず合わせてみるが、ああでもないこうでもないとなかなか購入までは至らない。
「司さんはどっちがいいと思います?」
「え、えぇー……どっちでもいいんじゃないか」
「どっちもじゃダメです!」
怒られた。
一緒に選んでいるひなたもうんうんとうなずいている。
美也孤が手に持っているのはピンクのボレロと黄色のワンピースの組み合わせたものと、オフショルダーの赤いセーター。
「こっちのセーターはこのスカートと合わせようと思っているんです」
「なるほど……?」
ひなたは手に持っているピンクのミニスカートを、司に見せるようにセーターの下に合わせる。
美也孤は交互に体に当てて見せるが、司としてはまったくわからない。
「うーん、試着してみたらどうだ? サイズもみなきゃいけないし、着てみたほうがわかりやすくないか?」
「そうですね。ちょっと着てみます!」
美也孤は服を抱えて試着室に駆け込んでいった。
司としては何とか感想の先延ばしができたことにホッとする。しかし、自分の服ですら大して関心がないのに、女性モノとなるとお手上げだ。
「正直わからん」
「はぁ、なにか気の利いたことでも言えないんですか? 」
「うーん……むずかしいな」
「ちょっとくらい考えてもいいと思いますよ」
「そう言われても、全然わからないしな」
考えていないわけじゃない。考えてもわからないだけだ。
ただ、「どっちでもいい」よりは気の利いた言葉をかけるべきなのか。
もうちょっと考えてみようと前向きになるが、気の利いた言葉なんて何一つとして浮かばない。
「着てみました。どうでしょうか?」
そうこうしているうちに試着室の扉が開いた。中から出てきたのは黄色のワンピースを身にまとった美也孤。ピンクのボレロと組み合わせると、まさにこれからの服といった感じだ。
「春っぽいな。いいと思う」
「はい。黄色とピンクって明るすぎかなーと思ったのですが、着てみると案外良いですね」
「いいですね、やっぱり美也孤さんにはこういう色が合いますね」
「えへへー。そうですか。ありがとうございます」
その場でくるっと一回転すると、裾野の長いワンピースがふわっと舞い上がる。
服をつまみながら鏡を見る美也孤を待っていると、司の背中にひなたの肘が刺さった。
(先輩、言ってあげましょうよ。美也孤さん期待してますよ)
(え、なにを⁉)
(とぼけないでください。ゼッタイ言ってあげたら喜びますよ)
(わかっているなら二尾が言ってやれよ)
(先輩だからこそ意味があるってわからないんですか?)
二人は目だけで会話をし、ひなたは再度司を小突いた。
美也孤は着心地を確かめるようにスカートをつまみ、軽く左右に揺らしている。
「あー、まぁその……」
「んー?」
「似合う……と思うぞ」
「え――ッ! はい! ありがとうございます!」
目を美也孤から横にそらしつつ素直な言葉を口にすると、美也孤は一層笑顔を輝かせた。
「もう一つ! もういっこの服も見てください! すぐ着替えますねーッ!」
照れながらワンピースの裾を翻し、再び試着室へ入っていった。
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