モフモフで可愛いなんて最高でしょ?
古代紫
第1話
冬の寒さは過ぎ、そろそろ春が来るだろうという三月下旬。真冬と比べて日が長くなり、夕焼け空が拝めると春の訪れを実感する。
そろそろ夜のとばりが下りる頃。自室でゆっくり動画サイトの動物ビデオを見ていと、来客の知らせが耳に届く。
ピンポーン
高校一年生の
ピンポーンピンポーン
空耳かと思ったが、どうやら我が家の来客で間違いないらしい。居留守を決め込もうかと思ったが、宅配便だとしたら再配達の申し込みも面倒だ。
不幸にも、両親も姉も外出中。留守番を任され、現在家には司一人。
仕方なしに腰を上げ、足音を立てずに玄関までたどり着く。ゆっくりと覗き穴から外の様子をうかがってみる。
……女性?
魚眼レンズにより歪んだ世界の端っこに人影が見える。ただ、来客の立ち位置が悪く、レンズの端っこギリギリにしか映っていない。かろうじて肩よりも伸びた茶髪から、女性かもしれないというところまではわかった。
右肩と髪しか映っていない以上、どんな人間がどんな用事でやってきたのかわからない。やはりここは居留守を決め込むべきか。
ピンポーンピンポーンピンポーン
回数が増えている。居留守は許されないらしい。
「はい。でまーす」
しぶしぶドアを開けてみた。
そこにいたのは一人の女の子。
歳はおそらく司と離れていない。ニット帽をかぶり、風にさらさら揺れる髪は腰まで伸びている。茶色のダッフルコートを着込んでいるが、それでも少し寒いらしい。両手を合わせ、口の前でこすって暖を取っている。くりっとした愛らしい目は右へ左へ泳いでいて、不安を隠せない様子。
「あ、あの笹原司さんですか?」
「あ、はい」
厚着の女の子に対し、暖房の効いた部屋でぬくぬくしていた司は現在薄着だ。ドアを開けた途端、春といえど冷たい空気に晒され顔をしかめる。
なんで俺の名前知っているんだ?
彼女の一言目に不信感を抱いたが、とりあえず用件を聞く。
「えっと私、
「はい」
「16歳です!」
「はい」
同い年か。それがなぜ自分の家を訪れたか、司には見当がつかない。
美也孤は両手をこすり合わせ、目を右へ左へ行ったり来たり。何を話したいのかわからないが、とにかく緊張だけは伝わってきた。「えーっと」や「あー……」とつぶやいたり、ぼそぼそ独り言を言うだけで会話が一歩も進まない。
司としてもいい加減、薄着で外にいるのも億劫になってきた。寒い。
「あの、天河さん?」
「は、はい! はい! なんでしょう!」
「いや、『なんでしょう?』はこちらのセリフですが……どういったご用件で?」
「あ、あのあの。えっと、私、来月からあなたと同じ高校に通います」
歳どころか高校まで同じとは。こんなにかわいい女の子と同じ学校に通えるのか……とぼんやり考える。
「そうですか。俺は笹原司です」
「はい。知っています」
だから何で知っているんだ。
美少女に名前と顔を覚えられてうれしい気持ちがある半面、不信感も募っていく。
いい加減寒さが我慢できなくなってきた。返事も適当なものになってくる。
美也孤は背筋をピンッと伸ばして、司の目をまっすぐ見た。
「あなたのことが好きです! 私の恋人になってください」
すさまじいお辞儀とともに叫び声かと思う声量で伝えられる気持ち。
告白だ。
勘違いの余地のない告白だ。
疑問と驚きで置いていかれる司をよそに、当の本人はやり切ったかのような爽やかな顔をしていた。
だが……
「えっと、すみません。できません」
「えっ⁉」
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