搾取と虚飾

青蒔

搾取と虚飾

 わたしは搾取されている。

 かっこいい。

 その一言でわたしはかっこよくないわたしを否定される。かっこいいわたしが会話の種として消費されるのと同じだけのかっこよくないわたしが磨耗していく。

 かっこいい。

 その一言はわたしにひとときの満足をもたらす。その概念はわたしが目指すものであるからだ。周囲の評価がわたしの価値を裏付けてくれるからだ。わたしという実態の伴わないかっこいいわたしが肥大していく。

 かっこいい。

 その一言はわたしを虚飾へ走らせる。わたしにかっこいいと告げる彼らの考えるかっこいいを偽っているのだ。刹那の興奮のために、わたしはわたしのもつかっこいいもかっこよくないも捨ててしまう。

 かっこいい。

 その一言はわたしを臆病にする。彼らの認めるかっこいいのほかにわたしには価値がないと思えるからだ。わたしの望むかっこいいと彼らがわたしに期待するそれに齟齬が生まれたとき、きっとわたしは誰の目にも止まらない。

 かっこいい。

 その一言はわたしをわたしから見失わせる。わたしの求めているものが彼らの求めるものにすり替わってしまって、とうとうわたしという存在の本当さえなくなってしまう。わたしという存在に関して盲目になってしまったが最後、彼らの目から逃れるだけの虚飾の限りを尽くすしかないのだ。

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搾取と虚飾 青蒔 @akemikotaro

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