第23話 ***斑 主人(まだら かずと)サイド***

***斑 主人(まだら かずと)サイド***


 一年ほど前、15歳になった誕生日に、ボクシングジムでのスパーリング中にテンプルに先輩の強烈な一撃をもらい意識を無くした。

そこで俺は夢を見ていた。


 それは名状しがたいアメーバー状の液体とも個体ともつかない気味の悪い巨大な生き物が人型の稲妻のような者に寄ってたかって切り刻まれ、目の前の空間が分断されていく。

 やがてその強大な物は三つに分けられ、一つは光り輝く天に、そして光と闇が混ざり合いながら大地に、そして最後の一つは闇に閉ざされた地の底を創造していく。

 さらに目の前に大地が現れ、さらに切り刻まれたその破片は海を作り、微生物が生まれ植物や動物が海と大地を闊歩するようになっていく。

 やがて、俺と同じ人間が目の前に現れ、天地創造の大パノラマが目の前で展開されていた。

 あっけに取られたて呆けている俺に気が付いた俺そっくりの人間が、俺に向かって歩いてきた。

 そいつは歩みを進めるたびに姿が崩れ、ゾンビのようなおぞましい姿になっていく。

「逃げなくっちゃ!」

 でも、俺の足は動かない。すでに人としての原型を無くしたゾンビが動けない俺の足にしがみ付き、上半身に向かって這い上がってくる。

 やがて、そいつが俺のほほを掴んだ。あまりのおぞましさに一瞬、意識を失ったみたいだ。気が付いたときにはそいつに全身を包み込まれ、そのどろどろとしたものが口から耳から鼻から、全身の穴という穴から俺の中に入り込んできた。


 凄まじい頭痛と吐き気に見舞われ、意識がもうろうとする。

 そんな時に流れ込んできた情報?! これが……、この気味の悪いものの記憶?!


 自分でも信じられないが、どうやら俺の前世は神だったらしい。もっとも、それは一部であり全部でもあるのだが……。

 その神って云うのが、この世の始まりも始まり、虚空の世に現れた混沌を司る原初の神だということだ。この国では艮(うしとら)の金神として封印され、ギリシャではカオスと名付けられ、奈落と大地と闇と夜を生み、中国では四凶の妖怪と畏れられ、最近ではアザトースと言われている。

 これら原初の神々は虚空に最初に混沌として存在し、天界と現界と冥界の神を創り出しだした創造神と描かれ、それらの神々を創り出したのちに、休んだ(封印された?)とされ、この神が目覚めれば、世界と神々が消滅するため、世界中で鎮める儀式が行われている。

 この国で行われる節句とは、実はあまり知られていないが艮の金神の封印の儀式なのだ。

 とまあ、これは俺が記憶を取り返した後、自分のルーツを知るためにネットで調べた内容で、若干、俺の記憶と違っている。

目の前で見せられた通り、後の神々は原初の神混沌を切り刻み、肉片を原料として世界を創造したのだ。

艮の金神もバラバラにされ封印されたとなっているけど、後の神々は俺達の中に混沌を、創造した神の属性で封じ込めたが真実だった。


じゃあなぜ、俺の中の混沌の封印が解けたのか?

ここからは俺の想像でしかないが、その日から、俺は自分の中の神(混沌)を感じるようになっていた。そこで感じたのは、俺は元々混沌に近い性格だったじゃないかいうことだ。

混沌って云うのは白痴だとされているが無知とは違うんだ。知らないじゃなくて、白痴って云うのは考えが巡らないっていうことなんだ。

俺は小さい頃からすぐに切れる性格だった。

周りは俺に対して距離を置いていた。そりゃそうだ。思い付きで行動して、思い通りにいかないと周りのせいにして暴れるんだ。親も早々に俺には見切りをつけたみたいだ。

そんなことさえ考えが及ばない。周りと折り合いが付けられない。

メリットもデメリットも計算できない危ない性格破綻者が、その時頭を打って、たまたま受けとったギフティド(天から飛び切りの才能を受けたため、社会の枠からはみ出してしまった人間のことらしい。まあ、凡人に天才が理解できるはずがないんだが……)だったらしい。後で俺をスカウトにきた一条の人間が言っていて知ったことだ。

アインシュタインもビルゲイツもギフティドだと言っていた。もともと人類の2%ぐらいはいるらしいんだが、ここ最近では15歳の誕生日を境に才能が開花する人間が増えていて、世界を相手にする一条財閥にとって横並びで浮きこぼれ(※落ちこぼれの対義語)を生み出すこの国の教育制度は目の上のたんこぶらしい。それで、そういった才能がこの国に見切りをつけたり埋もれたりする前にスカウトしているのだと話していた。

その日から俺は周りの人間に理解されることを辞めた。思う様に生きる。常識の基準は俺自身になった。

それからは俺のボクシングは破竹の勢いだった。スパーリングで日本ランカーを瞬殺。オマケにブロックのうえからダメージを与える必殺ブローさえ編み出した。

もう、学校はやめてプロになろうかと考えていた時に、一条学園から声が掛かった。世界有数の財閥が俺の才能を受け入れるというのだ。

全くの思い付きだ。面白いかも? その考えだけで一条学園に入学したのは……。

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