12
近くの廃工場で若い女性の死体が発見されたというニュースをテレビで見た。女性は妊娠五か月だったという。
情報番組が地元の物産展の話題に移った時、アギンが帰ってきた。「ただいまー」とスーツケースを部屋へ運び入れる。
「お土産買ってきたよ」
テーブルに載せた大きな袋の中に入っていたのはメロンだった。立派な網目の入った皮。かすかに甘い香りがする。フジカゲの柴犬のことを思い出した。別の袋には箱入りのお菓子も入っている。
「大きいでしょ」
アギンは晴れ晴れとした表情でメロンを示す。
「そうだね」
わたしは微笑んだ。
アギンがメロンを切ってくれて、二人で美味しいと言い合いながら食べた。
「レコーディングは上手くいった?」
わたしが尋ねると、アギンはうなずく。
「うん。サヤ、もう怒ってない?」
「うん。怒ってないよ」
「そっか。よかった」
そう言うアギンの肌はつるんとしていて綺麗だ。
わたしはアギンが帰ってくる前に考えた。もしアギンがわたしに安心を与えてくれなくなったとしても、わたしにはもうチャンスがない。でもアギンはそうではない。だから、アギンに嫌われないように努力しよう。これからのわたしは、アギンに愛を与え続けて生きるのだ。
「アギン、疲れたでしょ。マッサージしてあげようか?」
「お、頼む頼む」
うつぶせになったアギンの背中をもんでいると、アギンは突然、「もし俺がいなくなったらどうする?」と言った。
「え? なにいきなり」
わたしはなんとか明るい声を絞り出した。成功しただろうか。
「なにか不測の事態があるかもしれないじゃん。それで俺に会えなくなったらどうする?」
「不測の事態ってなに?」
「事故とか。例えばの話だよ」
「それは……悲しいよ」
「それだけ?」
「だって考えたくないもん。どうするかなんてわかんないよ」
「そっか」
「ねえなに?」
「なんでもないよ」
「そう」
ずっと一緒にいてね、と言いかけたけれど、重いと思われるかと思ってやめた。
「サヤ」
電話をかけてきたアギンの息は切れていた。
「なに?」
時刻は真夜中だ。アギンは仲間と飲み会に行っているはずだった。
「助けに来てくれない?」
「どうしたの?」
わたしはベッドから起き上がり、眠りかけていた目をこすった。「疲れた」とアギンは言った。
わたしが駆けつけた時、アギンは廃材が積み上がった空き地の隅に座り込んでいた。傍らには小さな投光器とシャベル。そして地面に寝そべった若い女性。ワンピースを着た女性の腹は大きくふくれている。
アギンはその女性を殺したのだと言った。途中まで穴を掘ったけれど疲れてしまったので手伝ってほしいという。
わたしは言われたとおりにした。女性の丸顔は青白く、長い髪が地面に広がって化け物の巣のようだった。目は閉じられ、半開きの口からはみ出たよだれは赤ん坊を連想させた。首の周りを赤っぽい痣が取り巻いている。
わたしは穴を掘り、アギンと一緒に女性を穴の中に入れ、土をかけて踏み固めた。腕と背中が痛く、話す気力もないまま自動タクシーで帰宅して眠った。
そういう夢を見た。
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