私がかみさまになったわけ 3
それからの日々は、地獄のようだった。
幸福だったのは私が神様になった1日目だけで、その後はただただ不幸なだけだった。
宗教組織としての青花会に異常なほど固執していた司教によって、私は毎日暴力を受けた。元々、彼は真面目で健全な研究者だったらしいのだが、借金があり、それを弱みに利用され、反対する彼を黙らせて元々の神様を何処かへ隠し、私を代役に立てたことに相当な怒りを覚えていたらしい。儀式が終わると、それまで穏やかに微笑んでいた彼は表情を変え、訳の分からない叫び声を上げながら、私をいたぶった。
他の修道士たちも、私が私のことを「私」というと物凄い顔で鞭を取り出し、定期的に訪れる女の証は、捧げものとして扱われた。
何もかもが、屈辱的だった。これなら、石や生ゴミを投げつけられていたときの方がまだマシだった。私の純潔はとっくの昔に散り、その後も絶え間なく奪われ続けたのだった。
そうして「私」は否定され続け、私は「僕」になった。
そんな日々はいつまでも続くように思われたが、唐突に終焉を迎えた。その日もまた、司教にお仕置きを受けていたとき、突如として警察が突入してきたのだ。女性警官が僕を「もう大丈夫よ」とマリア様のような声で呟くのを聞きながら、あられもない姿で警官に押さえつけられる司教の姿に、そういえば、遠い昔、「私」の処女を奪ったのも彼だったな、と涙が零れた。
その後、僕は施設で暮らしたが、すぐにその施設を出た。学校にも通ったが、馴染めず、僕は生まれてからずっと、結局1人だった。
一通り電子機器を扱えるようになって、青花会は壊滅したことを知ったが、ちら、と話に聞いた「研究」についてはどこにも書かれていなかった。
ほとんど行方不明扱いで学のない私は、自分の容姿を利用して、色んな男の家を渡り歩いていたが、あるとき、1人の老婆が私の元へ会いに来た。
彼女は驚いたことに、元神様と一緒に暮らしているらしい。そして、青花会について、様々なことを教えてくれた。まだ研究施設は残っており、そこで研究が進められていることも。
『あなたがいてくれたから、瑞樹は普通の人間として生きることができるようになった。お友だちもできて、幸せに暮らしているわ。本当にありがとう』
最後にそう言って去っていた彼女の言葉が、今も頭から離れない。
普通の人間???? 本物の神様が普通の人間として生きている????なら、偽物である私は、何故普通の人間として生きられない????
そんなことはありえない。許さない。湖と空の違いなど、何処にも無いはずだ。そもそも、湖も空も、青色に見えるだけで、元は色などないのだ。どちらも偽物。架空。かみさま。
だから私は、僕は、復讐することに決めた。湖の瞳のかみさまを生み出して、またあなたを孤独にすると。
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