私がかみさまになったわけ 1
水の中に、顔を突っ込むみたいな。そんで、時々地上に戻ってきて、息を吸わせてもらって。兎にも角にも、そんな人生だった。
生まれたときから、傷つけられてきた。穢れた子だと言われ、同世代の子どもには石を投げつけられ、まともにご飯も食べさせてもらえなかった。
はじめは、どうして自分がそんな風に迫害されるのかわからなくって、他人に優しくしたり、遊びに混ざろうとしたりしていた。けれど、返ってくるのは石やら生ゴミで。それでも、私がとんでもない阿呆だったから、この青い瞳とこの金の髪が原因なのだと理解するまでに、随分と時間がかかった。
『あなたの瞳はまるで青い空みたいで素敵ね』
母はそう言ってくれた。あいつらに殺されたけど。私が生まれたせいで。
『なんと穢らわしい』
『汚れたその瞳で見るな!』
『ここで育ててやってるだけでも感謝しろ!』
私を見るたびにあいつらはそう言ってきたので、年頃になった私は黒いコンタクトレンズをつけ、髪を染めるようにした。黒い瞳に黒い髪。あいつらと何も変わらないはずなのに、それでも私は彼らの中に交じることが出来なかった。
そんなある日、私と同じ、青い瞳の人間がいることを知った。それは、私もいつも参加しているミサの時間、聖堂の真ん中に立ち、みんなに馬鹿みたいに崇められている「神様」らしかった。黒いマントを羽織ったそのかみさまの顔は、いくら目を凝らしても見えなかったので、私も噂を聞くまではそんなこと、考えもしなかった。
でも、もし本当に「神様」が青い瞳であるのなら、何故私のように穢れたものとして扱われていないのだろう。交じりものは、罪の証であるはずなのに。
そして私はその日、ミサの時間が終わってみんなが聖堂を去っていく中、一直線に「神様」に駆け寄り、勢いよくマントを剥いでやった。周囲から耳を劈くような悲鳴が上がったけれど、私は全く気にせずにその顔を覗き込み、そして息を呑んだ。
青い、青い瞳だった。まるで湖みたいな、深い青。私の青い空みたいな瞳とは明らかに違う、青い瞳。
何で、と思った。私と同じように青い瞳を持って生まれてきたくせに、どうして「神様」なんて呼ばれているの。ていうか、私よりも背が低いし、生白くってもやしみたいだ。こんな奴が、神様?? 私の方が、神様だよ、ねぇ。
頂戴よ、その瞳。
『神様の瞳はとっても綺麗ですね』
気づけば私はかみさまの目を抉り取ろうとしていた。そのときのかみさまは何が起こっているのかわからず、目を大きく見開いたまんまで、とても抉りやすそうだった。青い瞳は宝石みたいで、くり抜いてホルマリン漬けにすればさぞ美しいだろうな、私の目と入れ替えてやれば私が神様になれるのかな、なんてことを考えていたのに、その願望はあいつらに止められた。私はあっという間に羽交い締めにされ、かみさまから引き離される。私はあいつらの腕の中で必死に暴れ回ったけど、すぐさま押さえつけられ、そのまま調教室へと連れて行かれた。
『何でだよ!!!!! 私が何したって言うんだよ!!!!! ほら、かみさまって奴、青い瞳してたじゃん!!!!! 私だって青いじゃんか!!!!! 何で!!!!!!! 何で!!!!!!』
喚き散らす私をあいつらは呆れた様子で見つめ、1日中鞭で嬲った。身体中を触られた。ほとんど膨らみのない胸も、綺麗だった私の大切な部分までも。
調教室、そして懺悔室。やっとそんな地獄から解放されたとき、私はもう私ではなくなってしまっていた。
そう。これは、「神様」になれなかった可哀想な「かみさま」のお話。みなさんどうか、最期までお付き合い願います。
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