第33話 最後の戦い(1)魚と鳥

 川をいくつ、山をいくつ超えたか。

 いつ刺客が襲って来るか、何人刺客は残っているのか、わからないままに疾風達は旅をしていた。

「おお、大漁ね!」

「今日は魚三昧だぞ」

「楽しみ!」

 河原で野宿する兄弟は、決して気を抜いてはいない。警戒すべきことろはしている。

 魚、木の実、野草、獣、鳥。野宿そのものはあまり苦にはならない。いつ来るか、何人来るか、わからないで警戒を続けることが、神経を削るものだ。

 しかしそれも、兄弟3人でいれば、大した事も無かった。

「ちゃんと追って来てるかな」

 焼き魚を齧りながら狭霧が言う。

「見失う程ぼんくらじゃないでしょ、いくら何でも」

 八雲は笑ってそう言う。

「鳥に見て来てもらうか」

 疾風はそう言って、魚をもぐもぐとしながら空を見上げた。

 迎え撃つ場所として選んだのはここだ。人里から離れていて、街道も近くにはないので、見られる心配もない。

「今頃、どの辺を歩いてる事になってるのかしら」

 八雲が言うのに、狭霧が思い出しながら言う。

「大体、桑名の手前辺りじゃないかな」

「お伊勢参りかあ。

 あ、何か土産物もいるな」

「何か見繕って帰りましょう」

「そうだね。でも、早く済めば、本当に伊勢に行けるんじゃない?」

 狭霧の声音が変わり、3人は一方を見た。

「よお。飯時だったか」

 槐が立っていた。

 仕留めて毛をむしり、直火で焼いた鳥をむしゃむしゃとしている。

「ああ。ちゃんと血抜きして捌いて焼けばもっと美味いのに」

 疾風が嘆く。

「原始人並みの味覚なら、これでいいんじゃない?」

 八雲が失礼な事を平然と口にする。

「塩とかも振ってないみたいだよ」

 狭霧が言うのに、

「言ってやるな」

と疾風が首を振って見せる。

 それで槐は何となく物悲しくなってしまった。

(おかしい。これで少しビビらせるはずだったのに)

 予定では、プレッシャーを与えるつもりだったのだ。

 なのに、彼らに同情され、彼らの方が美味しそうな焼き魚をぱくついていた。

(ああ、もう、何もかもに腹が立つ!)

 槐は、齧りかけの鳥を焚火に放った。

「お前らは昔からそうだ。余裕がありそうな面で、親が死んで何もかも無くしてからも笑ってやがった」

 槐はペッと唾を吐いた。

「気に食わねえ。生意気なんだよ、手前らは!」

 静かに、疾風が訊く。

「だから、滅茶苦茶な任務に就けたのか」

「ああ」

「里の方針に逆らって、こうして狙って来るのも?」

「そうだ」

「死んだぞ、お前の命令のせいで、その4人。どんな気持ちだ」

「使えねえやつらだ。だが、俺がこの手で仕留めてやれると思えば、悪くねえな!」

 言い、何かを投げつけて来る。それに疾風が鳥を投げ返し、狭霧、八雲は横に飛び、疾風は後ろに飛ぶ。

 槐が投げたのは火薬だった。それが火のついた鳥にぶつかって四散し、槐は顔をそむけた。

「実戦経験が足りないのよ!」

 八雲が突っ込んで殴り掛かると、槐は下がってかわす。

 その槐に、狭霧がつぶてを投げると、中に防具を着けていたらしく、カンカンと音がした。

 疾風は焚火の中から串を引き抜き、投げつける。

 これは剥き出しの手首と足首に突き刺さり、槐は大きく吠えた。

「痛えじゃねえか!」

 そして、八雲を投げ飛ばした。

「クッ!」

 狭霧は言った。

「あのクスリを使ってるよ!」

 瀬名の使っていたクスリだ。

「へへへっ。俺は無敵だぜ!」

 槐は、リミッターをクスリで外していた。




 

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