第8話 季節外れのゆきだるま(3)治外法権

 早速狭霧は、雪だるまの会の店を探った。

 店主の宗右衛門は、大きな荷物を背負って歩いて行く。

 それを気配を殺して尾けて行くと、辺りを窺ってから、ある寺へと入って行った。

(信心深いようには見えないし、気になるな)

 狭霧は後に続き、ひょいと屋根裏に忍び込んだ。

 宗右衛門は、住職の雲海と奥の部屋に入り、担いで来た荷物を下ろし、積んであった箱のふたを開け、中に入れる。

 小判がたくさんあった。

(出資金だな)

 中には2口、3口と出資している者もいると聞いているので、相当集めているらしい。

(あるところにはあるんだなあ)

 そう思いながら、雲海と宗右衛門に注意する。

「そろそろ、潮時だ」

「わかった。すぐに手配しよう。どこに行く?」

「そうだなあ。しばらく常陸あたりでほとぼりを冷ますか」

「約束の分はもらうぞ」

「がっちりしてやがるな。生臭坊主が」

「お互い様だ」

 2人は含み笑いをして、千両箱の小判をじゃらじゃらともてあそんだ。


 狭霧から話を聞いて、疾風も八雲も、想像して唸った。

「寺か。奉行所が立ち入れないな」

 寺社は寺社奉行の管轄で、奉行所には踏み込む事ができない。

「このままじゃ、出資金を取り戻せないで、泣く人が出るわよ」

「雲海は船で宗右衛門を逃がすって言ってた」

「その前に、何とかしないと」

 3人はどうしようかと考えた。


 垣ノ上は、文太と連れ立って、肩で風を切るようにしながら歩いていた。

「旦那。今日のねこまんまは、何ですかねえ」

「今日は夕方から行って、じっくりと飲みたい気分だな。八重の酌で」

 締まりのない顔で言う。

「あ、八重じゃねえですかい?」

「ん?」

 通りの向こうを指して文太が言い、垣ノ上も慌てて目をさ迷わせた。

 八雲は、垣ノ上の巡回コースに交わるように歩き、見つけさせることに成功した。

「ああら、垣ノ上様と文太親分」

「おう、八重じゃねえか。奇遇だな」

 垣ノ上が気取って見せる。

「ええ。ちょっと出かけてたんですがね、ついでにお参りでもして行こうかと」

「お参り?」

「御存知ありませんか?浄福寺が御利益あるらしいんですよ。見合いが成功したとかいう話を立て続けに聞きましてね」

 勿論うそだ。

 しかし、八雲と縁結びのお参りというのに、垣ノ上が飛びつかないわけがない。

「本当か!?」

「ええ。よく知らないけど」

「よし、一緒に行こう!」

「いいんですか」

「女の一人歩きは危ないからな!」

「旦那。真昼間ですぜ」

「うるさい、黙れ、文太」

「へい」

 そうして3人は連れ立って、雲海が住職を務める寺へと向かったのだった。

(さあて。上手くやってよ)

 八雲は内心でほくそ笑みながら、垣ノ上の話ににこやかに相槌を打っていた。


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