第19話

アストリのお店を出ると日が傾き始めていた。

私とレアンドルが向かっている先は高位貴族御用達の装飾品店。向かいながら考えることは王妃様になにを贈るか。

ちなみに王妃様が好きな宝石はルビーだ。

それが使用されている良い物が入荷していると嬉しいのだけど。


「ヴィオ、何を考えている?」

「王妃様に贈る物を考えていたの」

「なるほど、決まったか?」

「王妃様が好きなルビーを使った物を選ぼうかと」


良い案だと褒めてもらえる。

王妃様の贈り物と一緒にレアンドルにも贈り物をしようかしら。ここ一週間、彼からは様々な物を贈ってもらっている。

今日はドレスまで作ってもらった。それに関しては衣装を作ってもらうことで返せたけど、他の物のお返しは出来ていない。

レアンドルはどんな物が似合うだろうか。

じっと彼を見つめていると目が合って微笑まれる。


「どうしたんだ?」

「レアに似合う宝石を考えていたの」

「何か贈ってくれるのか?」

「一週間、毎日贈り物をしてもらったからお返しをしたいのよ」


素直に言うとレアンドルは目を瞬かせる。

そっちから聞いておいて驚かれるとは思っていなかった。すっと視線を逸らした彼は口を押さえて「本当に狡い」と小さく呟く。

数秒後、こちらを見つめるレアンドルの頬は少しだけ赤らんでいた。

夕陽のせいかしら。


「君は普通の令嬢とは違うな」

「そう?割と普通だと思うけど…」


言った後に気がついた。

普通のご令嬢はやけ酒して男性と一夜を共にしたりしない。

そう考えると私はかなり変わっている。


「普通のご令嬢と違うってやけ酒をする話?」

「それもあるな」

「他にもあるの?」

「沢山ある。教えないけどな」


どうして教えてくれないのだろうと思っているとそれに気がついた彼から「教えたら普通に戻そうとするだろ」と言われてしまう。

変わっている部分があるなら直したいところだけど、どうやら彼はそれを望んでいないらしい。

それなら別に良いかと思ってしまった私は「もう聞かないわ」と返した。


「ところでレアは好きな宝石ってあったりする?」


話題を元に戻そうと思って質問を投げかけるとレアンドルは顎に手を添えて考える仕草を見せた。

なかなか様になっている姿に見惚れているといきなり視線が絡み合い驚く。

じっとこちらを見据えてくる彼がなにを考えているのかさっぱり分からず固まっていると質問の答えが返ってくる。


「私はエメラルドが好きだ」

「エメラルドですか?」


てっきり自身の瞳の色によく似ているサファイアあたりを選ぶと思っていたのに。

ただ彼は寒色が似合う人だ。エメラルドでも彼の容姿の良さを更に際立たせてくれるだろう。しかし私の瞳と同じ色を口にされるとは思わなかった。

この国の貴族には想い人の瞳と同じ色をした宝石を身に付ける慣習がある。王妃様がルビーを好んでいる理由も陛下が赤眼を持っているからだ。レアンドルがこの慣習を知らないとは思わない。しかし天然な彼のことだ、意識せずに言っているのだろう。

そう思っているとレアンドルは予想外のことを口にする。


「君の瞳の色と同じだから好きなんだ」


レアンドルからの言葉にぽかんと口を開く。

言われた事の意味を理解し、一瞬で頰が赤く染まる。

な、なに言ってるの…?

動揺が顔に出ているのだろうレアンドルには笑われてしまった。悪戯が成功したようにくつくつと声を堪えながら笑う彼を見て揶揄われたことに気がつく。


「冗談はやめてよ」

「冗談ではない。実際にエメラルドは好きだ」


私が冗談と言ったのはそこの部分じゃないのだけど。

硬派な人間に見えるのに実は天然で茶目っ気がある。他の女性が知ったら喜びそうだ。


「でも、エメラルドを身に付けられるのはちょっと恥ずかしいような…」


彼から贈られてきたサファイアのネックレスを身に付けるのだって変に意識してしまって勇気が必要だったのに。

そんなことを考えているとレアンドルは不思議そうな表情を向けてきた。


「仲の良い恋人を演出するならお互いの目の色の物を付けた方が良いだろう?」

「あ…」


ああ、そうだ。忘れかけていたけど私達は仲が良い恋人のふりをしているのだった。

レアンドルは真面目に恋人のふりに取り組もうとしているのに私ときたら妙に意識しちゃって馬鹿みたい。


「確かに仲良しな恋人のふりをするにはそっちの方が良いわね」

「だろう」


離れていた手が繋ぎ直される。

ちょっと前まで温かい気持ちになっていたその行為は急激な冷えを感じさせた。


「日が暮れる前に買い物を終わらせましょう」

「ああ、そうだな」


浮かれそうになった気持ちを胸の奥底に沈ませた。

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