人生酒

 子どもの頃、父にねだってビールの泡を舐めた。苦くて美味しくなかった酒は、大学サークルで仲間と飲むと美味くなって、映研の縁で知り合ったあの子と個人的に飲むようになって、ますます旨味が増した。


 一人、画面の中の物語を見ながら飲む酒も良い。数時間で一番の輝きを謳歌する人生の華を見ながらの酒は、少しずつ、じっくり自分の中で熟成を進める味だ。


 今は自分が息子にビールをせがまれる歳になった。あの日映研の映像より目を惹きつけられた君にたしなめられつつ、一口だけ。


 不味そうな顔をする息子に微笑む。一人でも、程々ならヤケ酒でも、大切な人との飲み交わしでも。君が自分なりの酒の味を楽しめるようになれば良いと思う。


 Twitter300字ss第三十七回お題……「酒」(本文297文字)

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