私は夜を泳いでいたい

 スマートフォンに、お気に入りの寂しい曲を入れて、イヤホン繋げて聴きながら、夜の街に繰り出した。夜の街はもちろん人の気配が少ない。時折通り過ぎる車。まだ灯りのついた家の窓。人とすれ違う事ってほとんどなくて、遠まわしなそれらだけが人の気配を教えてくれる。


 私は夜の闇を両腕を突き出しては左右に開く。何度か繰り返して、泳ぐようにして夜を歩く。こんな事をやっていても見咎められる確率が少ないのは良い事だ。こうして夜を掻いていたい。たった一人泳ぐように、夜の街を歩いていたい。


 そうして願いながら夜通し歩いていたら、この街には朝が訪れなくなった。




 Twitter300字企画第六十七回お題より……「泳ぐ」(本文266字)

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