100匹の蝶の瞬きは彼女の願いを嘲笑うかの様に、

影神

蝶の絵本




俺の住んでいる地元には蝶が有名な施設があった。




蝶の他にも沢山の花や、虫が居る。




その季節なると、度々ニュースで取り上げられる程に。






蝶とは名ばかりで、蛾と何が違うのか、




虫嫌いの俺には何ら変わりがなかった。






小学生の時に授業の一環で確か、




一度は行ったはず。




そう言われ引き出しを探すも、




引き出しの中は空っぽだった。






幼なじみの彼女は生まれつき身体が弱かった。




両親の仲が良かったのもあり、




小さい頃はしょっちゅう一緒に遊んだ。






勿論、彼女の身体では外で遊べる訳もなく、




窓から入る陽射しを彼女の笑顔と共に、




体で感じるぐらいだった。






『笑顔の似合う少女』と、




でも呼べる程に、彼女には笑顔が似合っていた。






歳を重ねる度に彼女とは会う機会が減り、




俺の中から彼女が少しずつ消えて行った。






思い出したのは、そう。




この施設に来たのが"始まり"だった。






"蝶が100匹同時に羽ばたく時、




願いの風が吹き始め、




汝の願いが聞き受けられるだろう"






自分が分からないまま、




時間だけを浪費し、




歳だけを取ってしまった俺は、




社会の荒波に揉まれた。






陰湿な人間と歪んだ関係に疲れ、




心が荒み切った頃。




中学の腐れ縁が遊びに誘ってくれた。






彼も彼でいろいろあり、




まあ、




"似た者同士"




と言うのが性に合うだろう。






連絡が来て、都合が合えば遊ぶ。




そう言った関係だ。






彼は車好きで、




なかなかの車に乗っていた。




没頭出来るものが1つでもあることが、




正直俺には羨ましいかった。






確かその日は彼の仕事があった為、




午後から遊んだ気がした。




金のない俺は豪遊出来る訳もなく、




友達が見付けてくれたスタンプラリーに、




喜んで賛同した。






体を動かすのは嫌いじゃないし、




尚更金が掛からないに越したことはない。




勿論、入場料がかかったが、




ワンコイン以下で楽しめるので、




出し惜しみは不要である。






施設内は案外広く、正直スタンプラリーを嘗めていた。




すぐ終わるだろうと、豪語していた俺らに、




一体この先に何が待っていただろうか、、






気温は思っていたよりも暑く、空中には虫が漂い、




スタンプの場所は迷路の様に入り組んだ場所にあった。






何ヵ所か分かりずらいスタンプの場所を、




悠々と通り過ぎてしまった頃には、




もう、体力が尽きていた。






子供の頃なら冒険感覚で存分に楽しめただろう。




別に楽しくなかった訳ではない。




楽しさよりも疲労の方が勝っただけだ。






何とも言えない汗は、喉の乾きを促し、




自動販売機へと脚を運ばせるが、




外にある自販機には勿論住虫が居た。






運良く、スポーツドリンク等がある訳もなく、




オレンジの飲料をしぶしぶ買う。




甘ったるいそれは、乾きを一時的には癒したが、




更に、まともな飲み物をよこせと言わんばかりに、




喉をあの、何とも言えない状態にさせる。






敷地には昔ながらの建物等もあり、




イベント事等もやっている様だった。




俺達はしぶしぶスタンプを諦め、




施設内の展示を見て回る事にした。






施設内では虫が沢山飼育されており、




頭上や、付近を飛び回って居た。






すると、そこで一匹のアゲハ蝶と出会った。






こうして、冒頭に戻る。






友達「確か、学校の奴で来たと思うけど、」




俺「まじか、、




昔の事とか、あんま記憶なくてさぁ、




病気なのかも笑」






他愛もない話をしながらうっすらと少女の面影がそこに残る。




俺、来たことあったのかなあ、、






アゲハ蝶の写真を撮り、SNSのアイコンにする。




別に見せびらかす様な相手が居る訳でもないが、




何となく、旅の記憶として、そうした。






ブースが終わると、お土産コーナーがあり、




ふと、蝶のキーホルダーに目を引かれる。






コレ、、




また、女の子の記憶が過る。






友達「何か買うの?」




俺「いや、何となく、、」






ここに来ると懐かしい様な記憶が度々現れる。






疲れきった体を助手席に預けながら、帰路へと進む。






友達「今日はありがとな」




俺「こちらこそ、




いつも運転してもらってわりんね、






帰り気を付けて」




友達「んじゃ、また、」






彼との時間は何となく、




心を落ち着かせるのに、いい時間をくれる。




別に何かある訳ではない。




だが、何か休憩の様なそんな様な感じを与えてくれる。






帰る家には誰も居ない。




両親とも疎遠になり、またふと彼女が現れる。






明日、久しぶりに行ってみるか、、






何となく、そう思った。






翌日。




彼女と遊んだ近所の公園へと脚を運んだ。






雑草が生い茂り、手入れが殆どされていなかった。




ブランコがあった場所には、何もなかった。






時を感じて居たら、向かいから少女が歩いて来た。






少女は何処と無く、彼女に似ていた。




確か、彼女には妹が居た様な、、






彼女は俺に気付くと会釈をしてくれた。




久しぶりの再会に何だか恥ずかしくなり、




たまらず会釈をする。




彼女と世間話をすると家へと招待された。




だが、気まずくなって、再度伺う事にした。






話によると俺の仲が良かった彼女はもう、






先が短い様だ、






もともと、あまり生きられる様な病気では無かった。




ここまで生きて居られるのが逆に奇跡とまで言える程に。






入院している病院の住所と部屋番号のメモを渡されたが、




俺は両親に挨拶をしてから伺う事にした。




両親は昔の様に優しく抱き締めてくれ、




身の上話しや、彼女の状態や、家族の事を沢山話してくれた。






自分の家じゃないのに、妙に落ち着く。




そんな感じがした。




小さい頃はしょっちゅう来てたもんな、、






夕食を誘われたが、気が引けたので、そこで帰った。




両親が病院にアポをとり、




俺は彼女の容態次第で面会する事になった。






大きな病院。




緊急外来や、夜間診療等も行われている、




地元の大きな病院。






彼女はここにもう、10年は入院している。




俺の10年は大した10年では無かった。




今の俺は10年前の俺と何も変わりは無かった。




だが、彼女の10年は確実に変わっていく。




それも悪く、酷く、、






扉の先には大人びた彼女が居た。




彼女「よっ、」




たどたどしい挨拶は彼女の表情を歪ませる。




俺「よっ、」






アニメが好きなのは健在だった為、




アニメの話で盛り上がった。




二人の時間を埋めるかの様に、




時間はあっという間に消費されていく。






次会う約束をし、病室を後にする。




見た目に異常がない。




至って普通だった。




だが、彼女の体は一刻と、病魔に蝕まれてゆく。




10000人に1人と言う難病は彼女を選んだ。




目に見えないもの程、辛く、苦しいものもないだろう。






そうして、まるで二人を邪魔するかの様に、




彼女と会う筈だった曜日は延期された。






トントン拍子に進む展開は、




俺の何かを置いてきぼりにして、




現実だけを突き付けてくる。






"もう少しだけ、待ってくれ"






俺の『何か』は、




彼女の命を奪おうとする




"ナニカ"に願う。






彼女の容態が良くなった頃、




彼女の両親に家へと呼ばれた。




軽い手土産を持ち、家へと赴く。






そうして、彼女両親から告げられたものは、




余りにも、良くない知らせだった。




俺は身体が揺れる感覚に襲われた。






彼女と1日だけ外出する事が出来る。




彼女の行きたい場所に一緒に。






これは両親が彼女に出来る最後のお節介だった。




医者も了承してくれたらしい。






彼女にとって、それが"最後の世界"だったから。






記憶は正直に、答えを照らし合わせるかの様に、




俺をその場所へと彼女と一緒に誘った。






"まるで、タイムリープするかのように"






最近友達と行った場所。




あそこに俺は彼女と小さい頃に行った事があった。




記憶が蘇る。






車椅子の彼女をゆっくりと転がし、




俺と彼女の貸し切りの施設はゆっくりと時が進む。




昔の思い出を語る彼女の笑顔は、




死が近付いている人間が表現出来る笑顔では無かった。






両親からのお願い。




彼女と一緒に外出をして欲しいと、、




思ってもない提案は、






"同時に家族との時間を奪うものでもあった"






母親「あの子はずっとあなたと一緒に、




前みたいに、遊んだり、話したりする事を、




きっと、、願っていたのだと思うの、、」




父親「本来、父親ならば、




むしろ反論する立場なのだろうが、、




意地悪にも、あの子だけには、




そうさせては、くれないようだ、、、






頼む。






最後の時間を一緒に過ごして貰えないだろうか、、」




下げられた両親の頭は、涙を隠すように、




ゆっくりと、長い間下げられたままだった。






彼女「昔。絵本を沢山読んだよね、」




俺「そうだな、、」




彼女「絵本の中ではさ、、




魔法とかで、病気が治ったりするよね、、」




彼女の言葉に返す言葉が俺には見つからなかった。






蝶が一斉に羽化し、羽ばたくと呼ばれている時期が、




ちょうど、今のこの時期だった。






この景色、この世界で、彼女の時間は止まる。






彼女「蝶の絵本でさ、、






『蝶が100匹同時に羽ばたく時、




願いの風が吹き始め、




汝の願いが聞き受けられるだろう』






って覚えてる?」




彼女の声は震えていた。




沢山の蝶が室内を舞う。




彼女「ここには100匹ぐらい、いるかな、、」




俺「あぁ、、きっと、いる、だろう、、」




こらえていた涙はゆっくりと落ちる。






彼女「どうか、、私をここに、居させて下さい、、




私、、、、、、」






蝶が彼女の視界を遮り、彼女の口元を隠す。




『アナタト、、、ヨ、、、カッタ』






群れの様な蝶は嘲笑うかの様だった。






彼女との時間は終わり、彼女は病院へと帰った。






俺「馬鹿だなあ、、、」






昔の蝶の物語には、きちんと意味があった。






"蝶が100匹同時に羽ばたく時、




願いの風が吹き始め、




汝の願いが聞き受けられるだろう"






『蝶は日付けが変わる頃、皆で渦を巻き、




その中で目映い、青白い蝶が生まれる。




その蝶を捕らえた者に汝の願いを叶えるだろう』






ったく、、どうしよもないよな、、




不法侵入。いや、、下手したら刑務所か、、






直ぐ様電話する。




俺「もしもし、、」






曜日が変わろうする時、車が到着する。






友達「本当に、やるんだな、、」




俺「ああ、馬鹿げてるよな、、」




友達「まあ、お前とは腐れ縁だし、、




たまにはこうゆうのも仕方ねえよな、、






『男の嵯峨』






って奴だな。」




俺「計画通りに、頼んだ、」




友達「おう!




行ってこい!」






警報が鳴り響き、夢中で走る。




ドームのガラスを叩き割り、中へと入る。






奥では月明かりが差し込む下で蝶が舞う。




時間は残りわずか、、




青白い蝶を探す。






どこだ、、






沢山の蝶が俺の体にぶつかる。




通常なら失神レベルの気持ち悪さだ。






必死に目を凝らし、渦の中へと手を差し伸べる。




蝶は青白い蝶を囲うように回る。






"汝の願いを叶えよう"




青白い蝶は直接俺の頭の中に働きかけるように、




テレパシーのように伝える。




"彼女を、、彼女を助けてくれ!!!"






眩い光と共に、蝶達は一斉に散らばる。




光景に気を取られていると、




携帯のブザーが鳴る。






友達「急げ!!」




起き上がり、扉の鍵を開け、






草むらをかき分け、ジャンプする。




脚を捻り、引き摺る様に車へと入る。






友達「よっしゃあぁあ!!」




素早いドリフトを決めると、




猛スピードで車を走らせる。






峠へと逃げ込み、落ち着いた頃には、




ニュースになっていた。




差し込む朝日は俺らの顔を照らす。






友達「うどんでも食うか。」




俺「さすがに、奢るわ、、」




友達「わりね。






じゃあ、御言葉に甘えて。」






いつもの自販機へと向かい、小銭を入れる。




貸し切り状態の駐車場には友達の車が映える。






うどんの取り出し口から当たりのエビ入りうどんが出た。




友達「幸先がいいね」




俺「お陰様で、、」






うどんの味は全くしなかったが、




その後彼女の病気が治ったかなんて言うまでもないだろう。






俺「かれぇ、、」




友達「これ、一味だわ、、」






記録帳に名前を残して、、






親愛なる友人に捧ぐ。






うどん。美味しかったです、













































































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100匹の蝶の瞬きは彼女の願いを嘲笑うかの様に、 影神 @kagegami

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