ギルドを逆追放された俺は、現実で美少女幼馴染との距離を取り戻す。元ギルメンたちはネカマに騙され内部崩壊したらしいが、今更謝ってきてももう遅い。幼馴染に君が好きだと告げるため、ネトゲを引退し大学を目指す
二上圭@じたこよ発売中
01
「漆黒の翼シュタインハルト、おまえをギルドから追放する」
「は?」
その意味をすぐに受け止めることができず、しばらく放心してしまった。
ヴァルキュリヤオンライン。
今日本で最も勢いがある、剣と魔法の中世ファンタジーMMORPGだ。
古参と言えるほどではないが、このネトゲに手を染めたのは中学一年生の夏。誰かに誘われたわけではなく、ネットで調べ物をしているときに、たまたま広告を目にしたからだ。
初めは軽い気持ちで始めたヴァルキュリヤ。
据え置きゲーム機のマルチプレイとは、比較にならないほどのプレイヤー人数。それが同時にログインし、日夜冒険し賑わうその様は、まさに別世界であった。
当時中一であった自分が、そんな刺激的な世界に引きずり込まれるのに時間はかからない。自らに与えられた自由時間、そしてお小遣い。その全てを捧げたといっても過言ではない。
ネトゲはかけた時間とお金だけ、得られる地位と栄光がある。ヴァルキュリヤの頂点とまではいかずも、漆黒の翼シュタインハルトもまた、畏敬の念を集める存在であった。
ギルドを作り、発展させ、後進の育成を施し、自分のギルドだけでは収まらず、他のギルドにも顔が利くほどの影響力があった。
現実では考えられないほどに持て囃される漆黒の翼シュタインハルトは、まさに俺の人生としての誇りであり、居場所でもあった。
それが高二の夏を控えたある日の放課後。
今日も今日とて真っ直ぐ帰宅し、意気揚々とログインした。そしたらギルドは俺一人残して、もぬけの殻となっていたのだ。
一体、なにがあったのか。
俺のログインに気づいた副マス、光輝の剣ヴァッファルから、呼び出しの個別チャットが飛んできた。
呼び出しの場所に来てみれば、そこにいたのは大勢のギルメンたち。
運営がやらかして、ギルマス一人残し全員脱退するようなバグでも発生したのか。だから早くギルドに入れてくれと、そんな呼び出しかと思ったのだ。
が、違った。
待っていたのは俺を追放するという、わけのわからぬ現実であった。
「どういうことだ……?」
「どういうこともなにもない! おまえがギルマスの地位を利用して、あまりなちゃんへしてきた嫌がらせの数々は、決して許されることではない!」
「嫌がらせ?」
「しらばっくれても無駄だ。おまえの悪行は全部、調べがついている」
まるで断罪するかのように、ヴァッファルは言い切った。
嫌がらせ。
見に覚えのない罪を着せられた俺だったが、あまりなについては引っかかることはあった。
一ヶ月前、ギルメンに連れられ加入した初心者プレイヤー。
どうやらあまりなは、リアルでは女らしい。
本人がそう断じたわけではないが、ギルド内ではそれが周知の事実として共有していた。
ネットゲームは初めてで、パソコンにも疎いらしい。ネットで調べ物をするくらいでしか、普段はパソコンを使って来なかった。それが広告の可愛いキャラクターに惹かれて、ヴァルキュリヤを始めてみたとのことだ。
だからネットリテラシーも欠けており、甘く見ていたのかもしれない。
キャラの名付けについての話になったとき、名前をもじったリアルでのあだ名だと漏らしたのだ。
雨宮莉菜とか天野里奈とか、そういう名前ではないかと、本人のいない場所で盛り上がっているのだ。どうやら女子高生ではないか、とまで話が進んでいる。
そんなだから、気づけば皆があまりなに夢中なのだ。
ネトゲに人生を捧げているような男は、リアルでは女と無縁。同じネトゲをやっているという共通点を通して、彼女を手に入れようと躍起になっているのだ。もちろん、リアルで繋がり物理的に繋がるためだ。
あまりなに気に入られようと、皆が彼女のレベリングを行い、貢ぎ、囲ってちやほやする。ギルド戦やレイドボスに対する備えも疎かになっていき、健全なネトゲの楽しみ方から外れていっているのだ。
端的に言うと、ギルドの姫が誕生し、風紀が乱れに乱れていた。
男共ももちろん悪いが、あまりなにも何度か注意したことがある。
何でもかんでも貰ってはいけない。
レベル上げを全て人任せにしてはいけない。
そういった旨の小言を何度かはしてきたが、決してそれは嫌がらせではない。本人も反抗的ではなく、ごめんなさい、初めてのことばかりでわからないことだらけで、などと反省している様は見せるが、改善は一切されない。
どうしたものかと頭を悩ませていた矢先に、この追放騒動である。
もしかすると小言や注意を全て右から左へと流し、それがねじ曲がってヴァッファルたちに伝わったのかもしれない。
「ヴァッファル、別に俺は嫌がらせなんてしていない。ただおまえらのやっていることが、あまりなのためにもならないから注意しただけだ」
「言い訳が見苦しいぞシュタイン!」
聞く耳を持たないとばかりに、俺の主張は切り捨てられた。
なおも俺は無罪を主張したが、チャット欄がすぐにギルメンの罵倒で埋め尽くされ、まるで話にならない。
どうしたものかとリアルで頭を抱えていたとき、
「どうされたんですか、皆さん?」
とうの話題の張本人、ギルドの姫がやってきた。
その女キャラのアバターは、まさに重課金廃人そのもの。ただのガチャ産レア衣装だけではなく、超高難易度クエストをこなした者だけが獲得できる、まず手放すことはない二度と手に入らない装備をしている。
レベルも一線で活躍できるほどあり、一ヶ月やそこらで到れる境地ではない。今日まで男共が貢ぎに貢ぎ、甘やかしに甘やかした成れの果てである。
「ああ、来てくれたかあまりなちゃん」
どうやらヴァッファルが、個別チャットで呼び出したのだろう。
「見ていてくれ。これからこの男を断罪する」
「断罪? マスターさんを? なぜですか?」
「君に酷いことばかり言って、苦しめてきたからだ」
「あれはマスターさんが、自分のためを思って、注意してくれただけで……」
「いいや、あれは注意なんかではない。悪意をもったただの嫌がらせだ。決して許されてはならないことなんだ」
そうだそうだ、とチャット欄が俺への憤りで埋め尽くされる。
あんなことを酷い扱いを受けながら、ただの注意だと思っているあまりなちゃんマジ天使。
そんな天使を悪意をもった嫌がらせをするとか、シュタインハルトはクソ。
クソインハルトからあまりなちゃんを俺が守るよ^^。
あまりなちゃん可愛いよペロペロ。
などなど、我らにこそ大義ありだとばかりに、ギルメンたちは熱り立つ。
街ではなくここは敵が出るフィールド。プレイヤーキルができない場所ではあるが、それでも罰せんとばかりに魔法の雨あられがシュタインハルトに降り注ぐ。
わかった。
もうこいつらには何を言っても無駄だ。
年単位の付き合いがある俺よりも、出会って一ヶ月やそこらの姫と繋がるのが優先なのだ。
「さあ、シュタインハルト。罪を認めあまりなちゃんに謝罪しろ。そして迷惑料として、そのギルドを俺たちに明け渡し脱退す――」
そこでもう、なにも信じられないとばかりに俺はログアウトをしたのだった。
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