第79話 開示されない情報と噓

ムガル帝国 Suratgarh(スーガトラル)


翌朝、昇(のぼる)が目を覚ましたのは6時ちょっと過ぎだった。

着替え終わってからすぐに、ドアがノックされたので返事をすると昨日の女の子が居た。


「朝食ができましたので、お呼びしました。」

「ああ…うん、ありがとう。」

「はい、それと飛行機に積む荷物をお預かりします。」

「もうすぐに、出発?」

「いえっ、お昼頃になる予定です。」

「わかった、それじゃあ任せるよ。」


っと、任せようと思ったのだが…。


「大丈夫、重くない?」

「っとと、大丈夫です。」


慣れていますからと自身いっぱいに言うのだがやはり無理そうだったので、少し彼女に言いながら持つことにした。

数回に分けるか、人を呼ぶのがいいのだが彼女が嫌がるので持たせることにした。

荷物を置いて、そのまま食事に向かう流れだったのだが…。


「…ごめんなさい。」


ゴンっという音がなった。

上に積んでいたM1903が部屋のドア枠の端に当たったからだ。


「いやっ、いいんだって…ちょっと長いしね。」


そう言ってライフルと水筒を持つことにした。

防弾チョッキや弾倉を詰めた袋も持ったのでだいぶ減ったと思う。


「すいません。手を煩わせてしまって…。」

「大丈夫だから…もっと短ければ良かったかもね。」


そう愚痴をこぼした。

ただ、やはりこのライフルはなかなかちぐはぐだと思った。

見てわかるのだが、やはりライフルとしてならよい長さなのだがサブマシンガンとして使うのであれば長すぎるのだ。

第一、拳銃弾に変えたのでもともとの交戦距離だと威力不足だったからだ。


「…短く…ですか?」

「そう…それとリー・エンフィールドも持って行きたいんだけど、また案内してくれる?」

「はい!」


5丁も持ってどこかに行くのかと思うのだが、彼女は特に何も言わなかった。

荷物を置いてやたら豪華そうな食堂に入り、なぜか、ウエイターにテーブルに案内されると注文を済ませるやいなや彼女は急いでどこかに行った。

ちょうど食事が運ばれる少し前に帰って来て、同じテーブルで食事を取った。


「それじゃあ、行こうか。」

「はい。」


そして、部屋の前に着くと彼女は俺に謝りながらどこかへ行った。

仕方がなく、リー・エンフィールドを手にし弾丸を探した。


リー・エンフィールドとM1903はクリップという弾丸が連なった物を弾倉に入れて装填する。

M1886は、リー・エンフィールドとは違い弾丸をショットガンと同じように重心の下にあるチューブとか呼ばれている筒の中に入れるようになっている。

装填速度では、やはりリー・エンフィールドの方が早い。


「お待たせしました。」


11個のクリップを袋に入れていると彼女が戻ってきた。

彼女は昨日選んだM1903を抱えていた。


「ああ、用は済んだ?」

「はい…その…。」

「なに?」

「M1903を短くしますか?」

「え?」


戻って来た突然、そんなことを言った。

そして、とりあえず出来たらやりたいと言ってしまい、そのまま他の部屋に案内された。

どうやら、工廠のようだった。

そして、壁には何やら見たことない兵器がたくさんかかっていた。


「なんで、ここに?」

「えっ、その…M1903を短くしたいって言ったっじゃないですか…。」

「あっ、うん。」


そして、彼女とどのくらい短くするかを考えた。

その結果、銃剣をつけたかったのでベルトをつける金具と先端の剣をつける金具の間の部分を半分にすることにした。

彼女は俺に待つようにいい、提案書を持って行った。

しばらくして、彼女が戻って来た。

完成した物を運んでくれると言われたのでそのまま部屋に戻った。


数時間後、昼食を済ませてC47輸送機に荷物を詰め込んだ。


「長篠軍曹!」


そう、彼女が俺のことを読んだ。


「どうしたの?」


短くなったM1903も無事届き、Kota(コーター)の司令部に行くだけだった。


「これで、お別れですね。」

「そうかな…俺はまた会いたいと思うよ。」

「いえっ…その…武運長久を!」

「ああ、任せて…消失の魔女は必ず…。」


そう、言葉を漏らしてしまった。

彼女は、作戦について知らないのではないかと思った。

だが、もう遅い気がした。

彼女は、とくに気にしてないようだった。

冗談だと思ったのだろう…。


「はい、お願いします。」

「ああ、任せて。」


飛行機が滑走路を走り、空へと向かう。

ロマンティックな物は何もない。

そして、あまり快適ではない空旅だ。

今も、この国で戦争は続いている。

大規模な攻撃が起きていようが、まだ始まってなかろうが戦闘機が哨戒をしている。

機内は、俺とたくさんの弾薬が積まれていた。

だが、連合のものは少ないだろう。

輸送船もなく、運び込まれた兵器郡の弾薬は枯渇する一方で古びた兵器が使われる。

新しかろうが、古びてようが1人でも殺せれば充分脅威だ。

今度の小隊長は誰だろう…。

そんなことを考えていた。




日仏露連合領 フランス 入間基地 執務室


ムガル帝国から帰ってきた陸上自衛隊第一空挺団第一普通科部隊第二中隊第一小隊長、沖田(おきた)寛二(かんじ)は入間基地にある田中(たなか)昌隆(まさたか)に会いに行った。

理由は、今回の戦闘での出来事や今度のことに関してだった。

彼の率いた日仏露連合陸軍第701工兵師団第五連隊は壊滅した。

勿論、そのことについて小言を漏らしたりはしない。

自殺することも考えていない。

ただ彼らの顔が浮かぶのだ。

少なくとも…いや、それ以上に彼らを看取ることもできずここに戻って来た。

そこで、ふと疑問に思ってしまった。

この基地に居た多くの報道陣、そしてムガル帝国で会った彼や同じ自衛隊の隊員は何かしらの戦争に関わっているのではないかと…。

いつか日本が戦争することに関しては覚悟している。

しかし、これは一体何なのだろう…。

なぜ、守るはずの国民が戦争に参加しているのだろう。

総力戦ではない、ましてや日仏露連合の戦争に本来ならば遠ざけるはずの彼らがピョートルや、山本、ボナパルトにより意図的に参加させているのではないか。

なら、なぜそれを田中は止めないのか疑問に思った。

この異常事態に、なぜこのような判断をしたのか聞きたかった。

そして、何より彼らをどうするかについて連合側から何も発表されていなかったことを思い出した。


少し強めにドアを叩くとドアの前で警備をしていた兵士達は驚いた。

中から、和元(かずもと)の返事が帰ってくると沖田は部屋に入った。

部屋には、田中の姿はなかった。


「田中司令はどこに?」

「北海道に向かわれました。1か月は帰ってこないそうです。」

「…連絡手段はありますか?」

「衛星通信は行えませんし、おそらく、会話は不可能でしょう。電文でよければ時間はかかりますが連絡は可能です。」

「具体的な居場所か情報は?」

「いえっ…ですが、航空母艦に乗るとおっしゃっていました。」

「…。」


連絡はできないことがすぐにわかった。

また、わかったとしてもどの航空母艦に乗っているかわからない。

日仏露連合は、モンゴル帝国との戦いで失った航空母艦とその乗組員、他の艦船の生産を始めておりその中から田中を見つけるのは途方もなく、どこに寄港するかもわからない以上会うのは不可能に近かった。

もっとも、沖田本人も5日後には福岡県にある基地に行かなければならなかった。


「あの…沖田中尉…お茶をお入れしますので…。」

「結構です。…和元さん、田中司令についてお聞きしたいことがあるのですが…。」

「何でしょうか?」

「この世界に来た時の交渉内容で、まだ我々に話していないことがあるのではないしょうか?あの日、あなたと田中司令、そして、坂上さん…あなた方は何を話し合って決めたのですか…それとも『生活』とは戦争行為も含まれていたということですか…。」

「…そうですね、お伝えしましょう。」


和元は、前置きをしてから言葉を述べた。

沖田は、話の中で昇を当てはめて見たが…彼はそうではなく自分と同じだとわかった。

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