第65話 違いを認知する人々
モンゴル帝国領雲南省民官共用西雙版納嘎灑国際機場(シーサンパンナ・ガサ空港)
乗っていた飛行機のドアが開き、俺は地面に足をつけた。
「…伍長、今日はここまでです。荷物を降ろしてから明日乗る飛行機に載せておきましょう。」
「ああ、うん…長かったね。」
「はい、では…行きましょう。」
俺は、重い荷物を持ち搭乗する予定のC47航空機に背嚢などの搭乗するまで必要でない荷物を載せ今日泊まる宿舎へと向かった。
昨日まで居た、Цэцэрлэг(ツエツェルレグ市)からここまで直線距離で約3000キロメートル。明日は、ここから2200キロメートル離れたムガル帝国首都デリーへと向かう。
そして、部屋に着いた俺はシャワーを浴びるのがめんどくさくなり寝ようとしたとき誰かがドアをノックした。
「伍長、居ますか?」
「中山か?」
「はい!」
俺は、ドアが開くと声の主である。中山三郎二等兵が居た。
「どうした?」
「はい、実は降下工兵部隊の隊長が伍長とお会いしたいそうなんです。」
「わかった、どこに行けばいい?」
「案内しますので、ついて来てください!」
俺は、中山について行き管制塔近くの建物の部屋に案内された。
中山はドアをノックし、長篠(ながしの)伍長をお連れしましたと言い、中から返事が返ってきた。中山がドアを開き中に入るとそこには、ロラと礼服を着た坊主頭の中尉が居た。
顔はいかつく、筋肉質な体型であり金剛力士像のような風格の男だった。
「そこにかけたまえ。」
「はい。」
どう見ても怖そうな人だったので内心ビビりながら、硬直したほほの筋肉をほぐすように手を当てた。
「では、中尉…私は失礼いたします。では、伍長…また、明日。」
ロラはそういうと部屋を出て、中山はドアを閉じた。
少尉はため息をつき、俺はもう抜け出したかった。
いったい何の用があるのか?
「初めまして、少尉。私は陸上自衛隊第一空挺団第一普通科大隊第二中隊第一小隊長沖田(おきた)寛二(かんじ)だ。」
「…陸上自衛隊。」
「そうだ、今回の作戦で共に戦うことになる。」
そう話すと彼はさらに、無愛想な顔になった。
「君は、すでに2回の作戦に参加しているそうだね。」
「はい。」
「では、何人殺したのか、また何発撃ったのか覚えているか伍長?」
俺は、覚えているはずがないので素直に「覚えていません。」と言った。
中尉は見せつけるように大きなため息をついた。
「…。」
中尉は少し黙った。
黙られても困るので本題を切り出そうとしたとき、中尉は口を開いた。
「今回の作戦は、海上からの援護射撃は予定されていない。参加艦艇は戦艦瑞風(みずかぜ)、軽巡洋艦藤沢(ふじさわ)、駆逐艦лист(リースト)の三隻のみだ。Alexandrina(アレクサンドリナ)・ Victoria(ヴィクトリア)、Sophia(ソフィア)の両名救出後協力組織である英派新政府組織支配領域のSri Ganganagar(ガンガナガル)に向かい高速艇により瑞風まで両名を届ける。私の部隊はデリーの総督邸で75㎜無反動砲による対戦車戦闘及び対人戦闘を行う既にデリー及びガンガナガルまでの道に展開している日露仏連合陸軍第22機甲師団第3戦車連隊第1戦車中隊及び陸軍第5騎兵師団第1連隊、第31歩兵師団、第7砲撃師団第1、第二、第三砲撃連隊は後退しつつムガル帝国を脱出する。君の部隊は最優先人物の護衛につきたまえ。以上だ。」
「了解しました。」
「何か質問は?」
「はい、最優先人物の輸送車両についてですが…。」
「これを、見てくれ…。機密保持のため読み終わったら焼却処分しろ。」
「わかりました。」
「他には?」
「いいえ、ありません。」
「そうか、では話はこれで終わりだ。」
「失礼します。」
俺は、そう言うと部屋を出て宿舎へと向かい短い眠りについた。
部屋を出て行く時、中尉がなにかつぶやいていた。
「…田中司令は何を考えているのか…噂には聞いていたが…やはり、私の部下…いや、あの基地にいた私を含むすべての人がなんらかの形で戦争に関わらされている…。」
昇は、宿舎に戻り沖田から渡された資料を読んだ。
資料によるとSd Kfz 222、kfz15、Horch108と文字が並んでいる。
また、Fatehabad(ファテーハバード)にて乗り換え用の車が用意されている。
昇は、Horch108に乗り込むことになっており、Sd Kfz 222とkfz15は官邸に2台ずつ置かれ、デリーから脱出する際には他に用意されているそれぞれ1台ずつの車両とHorch108の3台が最初にデリーから離れ、その少し後他の4台が逃げ出すことになっていた。
明朝
「伍長、行きましょう。」
「ああ、うん…ロラ…。」
「どうしましたか、伍長?」
「いや、なんというか…嫌な予感がするんだ。」
「伍長もですか?」
「ロラ…それはどういう意味?」
昇は、C47の近くにいた。
まだ、降下工兵部隊…日仏露連合陸軍第701工兵師団第五連隊の乗る航空機も離陸していない。
木下は杉山には、他の部隊の様子を見てくるように言った。
C47のパイロットは飛び立つまでの最終調整を行っていた。
「はい、具体的には言えませんが…嫌な予感です。…申し訳ございません。」
「…。」
「伍長?」
「いやっ、何でもない…木下と杉山には言わないように…。」
「了解しました…伍長…。」
嫌な予感か…。
なぜか、そんな予感がしている。
とくに、これと言った理由もなく装備や他の兵士にも不満なところはない。
ただ、たんに…なんとなくという感じで仮にそういうことが起きた時にああ、やっぱりかというそれくらい外れそうなものだがなぜか納得できるような気がするものだった。
ただ、どちらにせよ士気に関わるものなので何も考えないようにする方が得策である。
「ロラ…?」
「はい、伍長…なんでしょうか?」
「離陸までにやっておくべきことは全て完了したか?」
「はい、後は出発するだけです。」
「よしっ…。」
昇は、桜からもらった懐中時計を取り出し時間を見た。
概ね予定通りに進んでいた。
「長篠伍長!そろそろ時間です!」
「了解した…あと、2人来るからもう準備しといてくれ!」
「了解です!」
その後、杉山と木下が来て滑走路に向かい。
ムガル帝国へと飛び立った…。
少し眠くなった昇は飛行機の中でかるい眠りについた。
ムガル帝国Sri Ganganagar(ガンガナガル)
昇達の最終目標地点であるガンガナガルでは、防御陣地の築城が最終段階に入っていた。
「次弾装填…撃てぇー!」
陣地の一角で年の若い少年達が野戦砲の訓練をしていた。
最後の訓練弾は若干弧を描くように進み目標の木の板にぶつかった。
その様子をある男が見ていた。
彼の名前はમોહનદાસ કરમચંદ ગાંધી(モーハンダース・カラムチャンド・ガーンディー)。
彼は、これから起きることを知っており自分がどういう役割でここに居るのかも知っていた。
新政府軍は、ヴィクトリアの脱出後官邸を襲撃しすぐに声明を発表し残っているイギリス人を狩りだすだろう。
また、インドは私や彼らの歴史ではない歴史を作りその後戦争へと向かう。
ムガル帝国は、王がこの国統治をイギリスに委ね、イギリスの傀儡になったこの国はモンゴル帝国と日仏露連合の戦争にモンゴル帝国側として参入した。しかし、日仏露連合のモンゴル帝国上陸後輸送船に乗っていた多くの人々は日仏露連合の艦載機や潜水艦による攻撃により沈み、また上陸に成功した多くの兵士も前線で命を落とした。日仏露連合とモンゴル帝国の合意により終戦となったがモンゴル帝国から帰ってきた者はいない。第一に、モンゴル帝国東側の軍は日仏露連合により占領されており船は全て取られムガル帝国への帰国を禁止しているためだ。そのため、西側の港を使うことになる。
「…。」
計画通りに物事は進んでいるのかいないのか…。
アヘンとモルヒネの製造によりムガル帝国の軍備はبہادر شاہ ظفر(バハードゥル・シャー2世)の時より進んだ。
そして、彼は再び戻ってくる…。
この3つに別れた国が一つになり進む。
少なくとも彼らと私達の歴史ではない。
この国は、清々しいくらいに綺麗だ。
宗教という面では…いや、景観の面でもだ。
もし…私が生きていた世界で存在していたら素晴らしいものだったに違いない。
ただ、それが決定的な違いである。
この国の対外戦争の歴史は古く長い…そして、ようやくムガル帝国からインド共和国に至る。
だが、私と彼はそこにはいない。
やはり、この世界と私の居た世界、彼の居た世界、彼らの世界は全てこの世界と異なる取り分け彼にとっては信じがたいものだったからだ。
創世記において、作り出せなかったものはその後も作り出せなかった。
しかし、創世記に作られた物語を成し遂げることが今の目標だ。
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