第64話 ムガル帝国へのチケット

モンゴル帝国首都カラコルム


「久しぶり、元気にしてた?」

「うん、楽しい休暇になったよ。」

「そう…少し待っていて、もうすぐ来るから。」

「ああ…うん…。」

「錦戸?」

「はい、なんでしょうか?」

「しばらく部屋に人を寄せつけないように…。」

「了解しました。」


俺は、車に乗り家を出た後再びカラコラムに戻った。

そして、錦戸さんに案内された。


「さて、それじゃあ次の作戦の説明をしないとね…。なんて、ちゃんと銃のメンテナンスした?」

「したよ。」

「そう…なら、いいけど今回は一回行ったら整備ができないから。」

「…一体どこに行くことになるんだ、カチューシャ?」

「まあ、そう焦らずに…。そうね、出来れば3ヶ月間過ごして来た女の子達はどうだった?」

「みんな、優しかったよ。」

「そう…。」

「あのカチューシャ?」

「なに?」

「何か嫌なことがあった?」

「別に…。昇(のぼる)はさあ…私や桜、ジャンヌと過ごしたことちゃんと覚えてる?」

「もちろん、忘れたりはしてないよ。」

「…そうなの…なら、良かったのかな…。」

「何か…問題でもあった?」

「いえっ…なんていうか、あんたと話す時間はどんどん短くなっていってるなって…。」

「ああ…そうだね…。」

「ええ…。」

「カチューシャ様?」

「どうしたの、錦戸?」

「はい、Lora・Worley(ロラ・ウォーリー)兵長以下他2名が到着なさいました。」

「ありがとう、通して…。」

「はい!」


扉が開きロラ兵長と、中山三郎二等兵と、木下健之助衛生上等兵が入ってきた。


「日露仏連合陸軍第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊のロラ・ウォリー兵長です。彼らは、私の部下の中山三郎二等兵と木下健之助衛生上等兵です。」

「長旅、ご苦労様…。」

「ありがたい、お言葉です…。」

「それじゃあ、全員座って…。」

「「失礼します。」」

「楽にしなさい…。」

「「はい!」」


萎縮しているのか、中山と木下は少し堅苦しかった。

だが、基本的に問題はなかった。


「久ぶり…みんな…。」

「伍長お久しぶりです。」

「ああ、久しぶり…健之助はお疲れ様。杉山軍曹は?」

「はい、任務についています。」

「そうか…ロラ…3ヶ月ぶりだね。」

「伍長、ご無事でなによりです。」

「ああ、また…一緒に任務につけていいと思っているよ。」

「話は済んだ?」

「ああ、カチューシャ…もう大丈夫…。」

「では、任務の説明をするわ。でも、昇以外には伝えてあるんだけだね。」

「…また。」

「そうね…。」

「すいません…伍長…。」

「ああ…うん、ロラが謝ることじゃないよ。」

「はい…。」

「カチューシャ様。」

「何、中山?」

「伍長はいいとしても私達は他の兵士と接する機会が多いのでこのままの口調で会話します。」

「わかった、それじゃあ木下も同じように…。」

「はい…。」

「じゃあ…説明を始めるわ。中山、部屋の電気を暗くして…。」

「了解しました。」

「さて…。3人とも少し耳をふさいでおいて…。」

「了解しました。」

「…了解です。」

「カチューシャ様、私達は見ない方がよろしいですか?」

「ええ、それじゃお願い。」

「…了解しました。」


カチューシャはそういうと、地図を取り出し空気中に投影し始めた。


「今回の目的は要人警護ね。昇にはある人物のムガル帝国脱出を手伝って欲しいの。」

「ある人物って?」

「彼女の名はAlexandrina(アレクサンドリナ)・ Victoria(ヴィクトリア)。そして、もう一人Sophia(ソフィア)…年は私より下だけど友達よ。」


カチューシャはそういうと2人の顔を見せてくれた。

ヴィクトリアという女性は20代くらい、ソフィアという女の子は同じくらいの年の娘に見える。


「それで、なんで彼女たちを?」

「ヴィクトリアはあなたの世界のイギリス女王よ。」

「…そうなんだ…でも、なんでムガル帝国に…。」

「インド大反乱と言えばわかる…?」

「あのイギリスに対する反乱?」

「ええ、それがこれから起きるのよ。私たちがモンゴル帝国に勝利したことで…。あなたも知っているでしょ?」

「ムガル帝国の兵士が送られてきたから?」

「ええ、イギリスに言われてムガル帝国はモンゴル帝国に兵士を送り込んだの。けれど、結局私たちが勝利したことでイギリスよりだった現政府は批判されてもう国自体が手に負えなくなっている。えっと…イギリスとは言っているけど正式な名称ではなくて…まあいっか、とりあえずイギリスよ。今回、この2人を助けるのはイギリスが動くとすぐに大規模な内乱が起きてしまうから…。」

「内乱?」

「ええ、旧政府派と新政府派、イギリス統治派閥の三つ巴ね。今のイギリスの傀儡のような政府ではなくインドという国がこの世界にできることになるの。とはいえ、新政府、旧政府の呼称はあくまで私達が決めたものなの。この戦いは、イギリスによる統治の終わりでもあるの件の人物はイギリスという国のシンボルとして殺されてしまう前に助け出さなきゃいけないの。」

「そっか…。方法は?」

「ええ、まず投入する戦力は一個戦車中隊、砲兵三連隊、歩兵部隊一個師団、それと巡洋艦2隻、戦艦1隻、装甲輸送艦3隻…最後にあなた達よ。他にも軽車両とかは用意しておいたわ。回収した後は彼女たちを戦艦に載せて離脱…。言うのは簡単だけどそうじゃない…彼女たちが居るデリーから支配地域のSri Ganganagar(ガンガナガル)まで移動しなければならないわ。距離は400キロメートル超、特にデリー付近では反政府デモが行われていていつ武力行使が行われるかわからない…あんたは近くにあるムガル帝国軍のAgra(アグラ)空軍基地で航空機から降りて首都デリーにある総督官邸に行きイギリス近衛兵及び現政府近衛部隊と共に親英新政府派支配領域を通りムガル帝国を脱出する。なお、最優先人物の国脱出を優先するため他のイギリス人の脱出が最優先人物の救出を妨げる場合は最優先人物の脱出を優先するものとする。…他に作戦情報としては、市街地での近接及び郊外での待ち伏せ、民間人に扮しての投擲物及び爆弾による攻撃などが予想されわ。」

「その…。」

「なに?」

「空軍基地から彼女達を乗せて逃げられないの?」

「それも考えたわ…でも、現政府の崩壊が現在の推定より早いと逃げられる可能性が低い。最も空母を作戦に投入していないから味方による護衛や空母への着艦も不可能…ムガル帝国軍は航空機を持っているけど旧式というよりも日仏露連合はこの内乱には介入しない方針よ。まあ、貿易は続けるわ。」

「陸路だけしか方法はないの?」

「ええ、そのつもりよ。最も彼女達が官邸から逃げ出した時点で内乱は始まる。あなたは、その混乱の中を駆け抜けて逃げて行くだけよ。」

「無理難題かもしれないけど…はあ…。」

「ため息つかないの!」

「はいはい…。」

「それじゃあ、今から出発して!」

「えっ…もう?」

「そうよ、大丈夫。降下工兵部隊が一緒だし騎兵隊もすでにインドについてる。今から、飛行機で飛んで行けば少しは余裕ができる。じゃっ、ロラちゃんお願い。」

「わかりました。カチューシャ様…伍長行きますよ!」

「えっ?」

「それじゃあね、期待しているわよ!」


俺は、そのままロラに引かれて部屋を出た。

そして、そのままムガル帝国首都デリーへと向かう。

これまた、飛行機を乗り換え…あとは、車で向かうのだった。


「さて…ひとまず仕事は終わり…。」


カチューシャは部屋に残り紅茶を飲んでいた。

しかし、何やら外の方が騒がしい。

ドアがノックされた。


「カチューシャ様…ドルマー様が…。」


ドンっと鍵をかけていないためドアが開いた。


「お疲れ様です、カチューシャ…。」

「来ると思っていたわ…。」

「モンゴル帝国領内までは追跡いたしますので…。」

「それはどうも…。錦戸、もういいわ。」

「申し訳ございません!」

「いいの…引き続きよろしく…。」

「はっ!」

「あまり部下と厳しく接するのはどうなのでしょうか?」

「ドルマー、あなたのせいよ。」

「そうですね…さて、本題に入りましょう…。」

「紅茶ぐらい飲ませなさいよ…まあ、いいわ。それで、要件は?」


カチューシャが不機嫌そうに言うとドルマーは微笑みながらカチューシャに言葉を伝えた。


「なるほど…それじゃあ、もういいのね…。」


はいと、ドルマーは答えた。

カチューシャはやれやれと思いながらも少し笑った。

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