第56話 モンゴル帝国攻略作戦 Ⅷ 第22機甲師団

モンゴル帝国 カラコラム近辺


「…。」


昇(のぼる)は、基地を出てからカラコラムに向かい一人歩いていた。

数十分前、激しかった砲声の音は著しく減り変わりに聞きなれない音がしていた。

C分隊のみんなは、どうだったのだろうか…。

一緒に降下した部隊は、まだ生きているのか?

作戦はまだ、続いているのだろうか…。

何もわからないまま、ただゆっくりと徐々に色づいていく世界を見ながらゆっくり歩いていた。


次第に、音が大きくなってきた。

それも前からではなく、後ろからだった。

すぐさま、身を隠すために近くの茂みに隠れた…。

地を揺らす重低音に、僅かに聞こえる蹄の音…。

右膝を地面につけモシンナガンを構える。

リー・エンフィールドを自分の目の前に転がしておいた。

いざという時は、モシンナガンを捨てリー・エンフィールドを拾うかガバメントだけで戦うか…だった。

けれど、そんなことにはならずほっとした。

遠くから見える友軍に気づいてもらえるようにゆっくりと身体を持ち上げる。

味方の戦車部隊のようだった。

周りには、騎兵もいる。

防衛線は突破できたと思った。


「待ってくれ、味方だ!」

「日仏露連合軍か?」


俺の姿に気がついた2人の馬に乗った兵士が声をかけてくれた。


「そうです!」

「所属は?」

「日露仏連合陸軍第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊所属、長篠(ながしの)昇です。」

「あの降下した部隊か…。」

「他の部隊は?」

「後から来ます!Вавилов(ヴァヴィロフ)、乗せてやれ!」

「了解です、えーっと…伍長後ろへ。」


俺は、何とかヴァヴィロフという兵士の馬に乗った。


「戦車、前進!」


ヴァヴィロフとともに来た、兵士が後ろに声をかけると先ほどと同じような轟音が鳴り響いた。

そして、その音の主は砲塔の無い運搬車両にも見えた。


「…あなた達はどこから来たんだですか?」


俺は、ヴァヴィロフの腰の部分をつかみながら聞いた。


「私たちは、降下部隊に続き進軍を開始した戦車部隊です。正式には、日露仏連合陸軍第22機甲師団第1戦車連隊第2戦車中隊第1戦車小隊です。私は、その護衛に狩り出せれた騎兵です。」

「そうですか…。それにしても…変わった戦車ですね…。」

「まだ、使えますよ…MK.Ⅴですし。」

「…与那国島ではもっと違う戦車がありました。97式中戦車…だったと思います。」

「97式ですか…それも本土に比べれたら旧式ではありますね。とはいえ、ここではあまり関係がないことかもしれませんね。」

「…どういうことですか?」

「私は、この作戦よりも前からこの国に入りました。そして、偵察部隊としてこの馬と共に駆け巡りました。それで、今は私たちが占拠していますがノモンハンで戦闘が起きたんですよ。それも大規模な…。今もまだ、残っているんですよ。撃破したモンゴルの戦車が…。それも、T26や、BT5と言ったのが…。確かにモンゴル軍は強いです。でも、どうやら工業力で言えば遅れています。T26とBT5は兵士の訓練に使われる代物なんですよ。戦車だけでも性能差で一気に片付ければいいものの軍部は旧式の物ばかりこちらに送ってくるんです。」

「でも、それは部品の交換や補給物資としてのノウハウとかが有ったからじゃないんですか?」

「どうでしょうか…私にはわかりません。ただ…何というか本来であればこの戦争はこんな大規模な作戦を起こさなくても終わるはずです。海軍だって、わざわざ首都の近くにある港を攻撃をしなくてもいいほど優位に立っていました…。作戦開始前までは…。」

「作戦開始前って…一体何が…。」


俺は、そう彼に聞くと彼は言いにくそうに口を開いた。


「南側に居た部隊のほとんどが全滅しました。」

「そんな…。」

「ええ、敵は早かった…。それも、以上に…。」

「まだ、首都は遠いのに…。」

「作戦は続いています。このまま進撃を続けましょう…。2日後の朝にはカラコラムまでつけるはずです。…長旅になります。」


Mk.Ⅴが1両、FT17が1両、T34が2両という変わった編成の部隊だった。

当初、T44が4両のはずだったが生産が間に合わず、保有していた戦車を送り込んだということだった。




バイカル湾近海

航空母艦呑龍


海の上には、針のような光が断続的に飛んでいた。

隙間があるようにも見えるし、無いようにも見えるからだ。

その光を作る一粒一粒は、人にぶつかるだけで最悪一人は殺せるのだ。



「…。」


敵の空母は、燃えていた。

呑龍とよく似た形の空母だった。

頭の奥まで回ってしまった血液を足に落とすように帰りはあまり機を揺らさないようにして戻った。

何故だか、わからないが…やはりこの艦とあの艦は似ていた。

そして、その周囲に居た空母も羽沢や青羽のそれぞれに似ていた。

今日の戦闘で初めて敵の空母を目で見たが、ブリーフィングで見ていたものよりもずっとこの艦隊の船に似ていた。


「甲板を開けろ、次が来る!」

「あぁ!」

「くっ…回収急げ!」


後から来た飛行機が海に落ちたようだった。

呑龍の近くに居た駆逐艦が機体とパイロットを引き上げていた。


今回の戦闘で、味方の艦の損失自体はすくなかった。

だが、迅龍、轢龍は中破し、青羽は沈み、羽広は大破し…総員退官後駆逐艦の魚雷により沈めた。

5隻有った正規空母も4隻だけとなり、共に戦った旧型空母は3隻が海に沈んだ。

だが、3隻の艦長全員が負傷しているものの生きていた。


「…。」


ロッカールームに戻った私は、落ち込んでいた。

戦闘では、連合の勝利だったはずなのに呑龍にも負傷者は居た。

流れ弾や、敵がこの船を沈めようと無意味かもしれないが機銃を撃っていたからである。

これで、作戦での任務は無事に終えた。


「まだ、終わっていないか…。」


作戦は終わった…だが、まだ終わりではなかった。

次は、まだ残ってる艦を沈める必要があったからだ。


「何でこんなことに…なってしまったんだ。」


一体、誰を責めればいいのだろうか…。

ただ、もう彼らと過ごした日々は記憶として確かに残っている。



日仏露連合 パリ


「おはようございます、桜。」

「おはよう、ジャンヌ…。カチューシャは?」

「モンゴルに向かいました。」

「そう…作戦はどうなったの?」

「成功です。カラコラムに侵攻するのも時間の問題でしょう。後は、和平交渉をスタートさせるだけです。」

「どうなるんでしょうか?」

「権威の回復と、技術の発展の為に起こした戦争ですが概ねシナリオ通りに進みました。後は、戦後処理を任せるだけです。」

「でも、最低限の線引きは守ってもらわないと困ります。」

「はい、資源と造船所…それと工場の確保です。私の方からもきつく言っておきましたので大丈夫です。」

「…賠償金はどう?」

「私達にとってはいらないものですね。」

「スイスの動きは?」

「そこまで、取引には問題なさそうです。ですが…モンゴルの方は…。」

「経済は大事ですが…やはり、私達には邪魔な存在ですよね。」

「しかし、民は富による幸せを望みます…。」

「そうね…誰もが草むらの上じゃなくてベッドで眠りたいとか…物質的な満足を得たいもの…私だってそうですし…。」

「物さえあれば、満足できる…その交換条件、価値の尺度がお金です。」

「私達には、果たしてそれが必要なのか…。」

「あの方のお話ですか?」

「ええ、だって…あの人なら今すぐにでも世界中を豊かにして戦争の発生を促すことが出来て解放出来るはずなのに…。だけど、まだ待っている。確かにそれがどういうことなのかもわかります。けれど…。」

「桜、焦ってはいけませんよ…。」

「ごめんなさい…でも、かわいそうですよ…みんなが…。」

「解放の時は、まだ遠いです。…お茶でも飲みましょう。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る