第55話 モンゴル帝国攻略作戦 Ⅶ バイカル港砲撃
バイカル湾近海
艦隊は機動部隊と夜間戦闘部隊の2つに分かれ、夜間戦闘部隊は味方潜水艦隊と共にバイカル湾に侵入した。
「一番から六番、注水!」
戦闘は、潜水艦母艦艦隊から合流した潜水艦による魚雷攻撃からだった。
だが、それは当初の作戦とは異なる目標に最初に攻撃していた。
「浸水!」
沖合での艦隊戦を想定していたが敵艦隊一部は味方機動部隊と合流の為に港を出ており、日仏露連合の艦隊はバイカル湾に戻ってくる艦隊と、港湾施設の破壊の両方を行わなければならなかった。
その為、成功すると思われていた潜水艦による港湾施設攻撃はモンゴル艦隊の先行する駆逐艦との戦闘になり、同じように予定されていた機雷の破壊も不完全になりつつあった。
「艦長!」
「緊急浮上!」
潜水艦の乗組員による奮闘も虚しく…。
敵の駆逐艦よる容赦ない追撃により、海面に上がることができない艦もあった。
戦艦 Arc de Triomphe(ラルク・ドゥ・トリヨーンフ)
「艦長、敵艦隊が間もなくこの船の射程に入ります。」
「本艦と鳴門、北極星は、敵艦隊との交戦を続行する。また、作戦通り戦艦による砲撃を実施する。鳴門、北極星以外の戦艦はCarrousel(カルゼール)を旗艦とし作戦を続行せよ!駆逐艦は魚雷攻撃後敵艦隊の後方から追撃せよ、全艦砲雷撃戦用意!」
「砲雷撃戦用意!」
「総員、砲雷撃戦用意!銃座につけ!探照灯はまだ、つけるな!」
戦艦カルゼールを旗艦とし、四季島、瑞風、曙の4隻が艦隊から離脱しバイカル湾内に向かう。
「戦艦カルゼールより、発光信号!我、艦隊を離脱し攻撃とす。明朝、貴艦との邂逅を求む。以上!」
「我、夜戦に突入す。海域にて待て。…以上」
「了解。」
昼戦での戦いにより、門真(かどま)を失い。
艦隊の砲撃能力は低下した。
旧型の戦艦では、陸地に肉薄する必要があり、また砲撃の精度も改修を施したものの、やはり門真に比べて低下している。
そして、敵艦隊との遭遇により完全な奇襲ではなくなった。
「これより、艦隊陣形を解き各艦戦闘に移行せよ。反航戦用意!通過後は追撃に移る。以上!」
「了解!敵駆逐艦、主砲射程に入ります!」
「速度、このまま!主砲、撃て!」
艦を揺さぶるような轟音と共に第一、第二主砲が火を吹いた。
「次弾、装填!」
「戦艦鳴門も砲撃を開始、敵艦、以前進路変化なし。」
艦隊は、双方共に乱れていた。
大口径、小口径構わず弾が飛びまわり、何かにぶつかっては姿を歪めた。
「…巡洋艦Роза(ローザ)、大破炎上を確認。」
「このまま、通過する。」
「艦長…。」
巡洋艦とは、違い戦艦は巨体であるため転舵が難しい為Arc de Triompheは交戦距離を長く取っていた。
旧型の戦艦である、北極星も同様に交戦距離を長く取っていた。
だが、敵小型艦艇はこちらに向かい魚雷による攻撃を仕掛けてくる。
無論、こちらも敵と同じように駆逐艦、巡洋艦もモンゴル軍の戦艦に向かっていった。
昼とは違い、暗い中あまり頼りにならないレーダーと前時代的な探照灯による捜索、そして、監視員による敵味方の識別…。海上での戦闘は、航空機に全て奪われたと思われていたがまだ、ここに残っていた。
「右舷に魚雷、発見!」
「退避行動を!」
「間に合いません!」
「総員、ショックに備えろ!」
船が大きく揺れた…。
魚雷は、Arc de Triompheの第二砲塔より後ろ、そして、第三砲塔横に着弾した。
「…くっ。」
「艦長!」
「問題ない…船は?」
「右舷前方後方に魚雷を喰らいました。現在、隔壁を閉鎖。負傷者の数は不明。機関部、舵に異常なし!」
「最大船速、取舵一杯!砲撃を続けろ。戦艦鳴門に打電、我、右舷に魚雷2発被弾するも戦闘に支障なし、だが、速力の低下により指揮能力なしと判断し戦域を離脱する。艦隊の指揮権を貴艦に移譲す。以上!」
「了解!取舵一杯!」
「隔壁を閉鎖、注水を開始!」
「やっています!」
艦の浸水により、船はバランスを崩しつつあったもののその後の注水によりかろうじて船は安定した。
戦艦Arc de Triomphe(ラルク・ドゥ・トリヨーンフ)は、その後の陸地への砲撃を単艦で行い合流地点に向かった。
合流地点には、陸地攻撃を先に行っていた四季島、瑞風、曙の3隻が所々に傷を受けながらも残っていた。その後、戦艦鳴門と共に艦隊が帰ってきた。
だが、戦艦北極星の姿はなく…5隻あった巡洋艦のうち2隻、駆逐艦12隻のうちの7隻しかその場所には居なかった。
時間になり艦隊は、かろうじて航空母艦のカバーに入れる位置まで移動しつつあった。
敵艦隊を引き付けたことにより、上陸部隊も無事にモンゴル帝国の地に足を踏み入れることができた。
この海戦により、モンゴル軍戦艦オルホン、ケルレンを含む新旧4戦艦に被害を与えたものケルレン、トーラの2隻を沈めるのみだった。
戦艦トーラは、潜水艦Arg-5の魚雷により沈没。
潜水艦Arg-5は、トーラ攻撃後敵駆逐艦の爆雷により沈没した。
この海戦に参加した潜水艦12隻のうち7隻がArg-5と同じく駆逐艦、巡洋艦に追われ沈んだ。このうち、LeR-25はモンゴル軍に降伏し鹵獲された。
バイカル湾近海
航空母艦呑龍
戦艦打撃部隊により、港湾施設の破壊及び上陸部隊の上陸に成功した。
また、夜間降下部隊による降下作戦も終わり彼らの背中を追いかけるように空軍、陸軍がモンゴル帝国首都カラコラムへと向かった。
首都攻略も時間の問題になりつつあるが、機動部隊にはまだ、やるべきことがあった。
敵空母の破壊である。
敵の港湾施設を破壊したことにより、敵航空基地からの航空機による攻撃もあり得る話だが味方の進軍によって首都の防衛につくだろう…。
連合の陸軍の敗北も懸念されるが、この艦隊ほどでは無いだろう…。
それだけ、多くの人員と船を艦隊は失った。
「味方の偵察機が艦隊を補足した。敵の目標は、夜間戦闘を行った艦隊である。以上!出撃せよ!」
「搭乗員割は、昨日の夜発表された通り!空母羽沢、狩龍のパイロットは待機せよ!決して、出過ぎた真似はするな!」
青野は、昨日と同じF6F(ヘルキャット)に乗り込んだ。
雷撃機、爆撃機の護衛のためである。
昨日の今日で、編隊を組むことになるが問題は無かった。
確かに、同じ艦の乗組員だった山田をはじめとする多くの人を失ったが…彼らの仇を討とうとは考えては居なかった。
だが、今やろうとしているのは紛れもなくそれに近いだろう…。
直接、船を沈めることはできないにしても艦橋に銃弾を浴びせることはできる。
「…。」
私は、自分が自衛隊員であったことを忘れようとしているのだろうか?
忘れてしまい、このまま感情に駆られてしまうのもいいかもしれない…。
まだ、元の世界に帰れないというのならそれも悪くはない…そう思いつつある…。
飛行甲板から空に上がる…。
あと何回…ここから飛べるのだろうか…。
嫌なことが浮かび上がるがすぐに、そんなことは思い浮かばなくなった。
私の後ろには、共に敵の艦隊を目指す味方が居る。
彼らにも私と同じように家族は居る。
「…。」
軽く唾を飲み込んだ…。
私は、まだ幸運な方なのかもしれない…。
昨日、今日で…何かを守っているのだから…。
それが空母でも航空機でも関係ない…。
戦うことが、今できる最善のことなのだから…。
「敵艦隊を発見!直掩機は飛行甲板から飛び立ちつつある!」
「これより、攻撃を行い!援護を!」
「了解!そのでかい、逸物を喰らわせてやれ!」
私は、海面を飛ぶ雷撃機をよそに敵戦闘機との格闘戦を僚機と共に開始する。
私とは、色の違うF6F(ヘルキャット)が私を狙ってきた…。
「そんなに行きたきゃ…連れてってやるよ!」
そう捨て台詞のように呟いた。
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