第53話 モンゴル帝国攻略作戦 Ⅴ 夢の中の少女

モンゴル帝国 日仏露連合支配領域下 ノモンハン


目の前には、遥かに広がる草原が見える。

地平線は空と草原の2つに分かれていた。

風が吹くと緑は揺れ、痕跡を残さず風は流れていった。


「…。」

「どうかなさいましたか?」


そこには、赤い服を着た女の子が居た。

年は、同じくらいだろうか…。

俺は、彼女に話しかけた。


「ここは、どこですか?」

「さあ、どこでしょう?」

「味方の基地で寝ていたはずなんだけど…なんで、ここに…。」

「そうですか…でも、ここがどこかはそこまで関係ありません。」


女の子は、まるで何でもないかのようにそう言った。


「君は、誰なんだ?」

「すぐに、会えますよ…それより…今から面白いことが始まりますよ。」


彼女がそう言うと飛行機のエンジンの音が聞こえた。

そして、辺りから様々な騒音が響き渡る。


「…あれは?」

「ソビエト連邦の戦車ですよ。…それで向こうのは日本の戦車です。」

「もう…戦闘が…。」

「いえ、違いますよ…。」


彼女は、そう言うと周囲の光景が写真のスライドショーのようにいくつもの長方形に分かれ、崩れていった。

その一つ一つの長方形には兵士、戦車の残骸など色々な角度から撮影した物が描かれていた。


「昇(のぼる)さんは、ノモンハン事件をご存知ですか?」

「何で俺の名前を…。」

「私の名前は、Dolmaar(ドルマー)。カラコラムにて、あなたをお待ちします。」

「待って!」


急に足場が無くなり、暗い虚空へと落ちていく。

手を動かして何もつかめず…ただ黒く…見えなくなった…。


「…。」


目が覚めた俺は、アルスランを抜け出した。

まだ、夜は明けておらず見張りの兵士達が灯す明かりが見える。

無数の星が、空に有った。

先ほどの悪い夢とは対照的に雲に覆われず、ただ輝いていた。


「…ノモンハンでの出来事を知っていますか。」


彼女はそう口にした。

あれは、一体何だったのだろう…。

仮に俺の居た世界のことだったとしたら、彼女はその情報をどうやって手に入れたのだろう…。

はたまた、彼女が創造して作り上げたものかもしれない…。


「…悪い夢だ。きっと…大丈夫…。」


そう自分に言い聞かせて再び眠る。

きっと…大丈夫だと…。


明朝、俺はウンドゥルハーンの最前線基地に向かった。

護衛の戦闘機を伴いながら何事もなく、地上へと降りた。

基地には、多くの兵士がすでに集まっており整備兵がひっきりなしに航空機をぶつかるように点検していた。

俺は、カチューシャに教わった通り、レフのモシンナガンを整備した。

しばらくして、バルロー曹長に呼び出された俺は降下用のグライダーの乗員、そして、共に降下してくれる日露仏連合陸軍第15師団第5歩兵連隊第1歩兵中隊第2小隊A,B分隊の24名と2日後の夜を待った。



バイカル湾近海

戦艦  Arc de Triomphe(ラルク・ドゥ・トリヨーンフ)


「艦長、偵察機から入電。敵艦隊を発見。空母6隻を認む。以上。」


当初の予測より、早く会敵することになったか…。


「敵空母の艦種は?」

「ヨークタウン型正規空母と思われます。」

「正規空母は何隻だ?」

「およそ2隻、他4艦艇はラングレー級、レキシントン級と思われます。」


艦長である国木田(くにきだ)Аристарх(アリスタルフ)は焦っていた。

モンゴル帝国の保有する正規空母は6隻、他旧型空母12隻の合計18隻の空母が存在している。

しかし、モンゴル帝国もまた他国からの侵略の可能性があり首都であるカラコルムの他の地域の防衛として空母が必要であった。

その為、正規空母3隻、旧型空母を6隻を護衛艦と共に配備していた。

日仏露連合との戦争開始時既に空母は足りていない状況にあった。

その為、与那国及び他の島を制圧後航空母艦は早々とカラコラム周辺海域へと引き返していた。

日仏露連合による与那国奪還後も相変わらず戦場に姿を現していなかった。

そして、現在発見した航空母艦は8隻…まだ残りの3隻を発見出来ていなかった。

日仏露連合の艦隊は戦艦ラルク・ドゥ・トリヨーンフを艦隊旗艦とし、戦艦「Grande Arche(グランダルシュ)」、「Carrousel(カルゼール)」、「門真(かどま)」、「鳴門(なると)」、旧型戦艦「四季島」、「瑞風(みずかぜ)」、「曙(あけぼの)」、「北極星」、航空母艦「呑龍」をはじめとする正規空母「迅龍(じんりゅう)」、「滅龍(めつりゅう)」、「轢龍(れきりゅう)」、「狩龍(しゅりゅう)」の5隻、旧型空母「赤羽」、「青羽」、「羽広」、「羽沢」、「羽生」の5隻そして、巡洋艦18隻、駆逐艦40隻、潜水艦16隻である。だが、計画にある港湾攻撃のため潜水艦母艦「鯨岡」、「鯨波」の護衛のため巡洋艦2隻と駆逐艦4隻は艦隊を離れていた。また、潜水艦も同じく艦隊を離れている。

モンゴル帝国の艦艇は、これまでの戦闘で戦艦2隻、巡洋艦6隻、駆逐艦10隻を沈めており今も、港の近くで沈んでいる。

だが、具体的な艦艇の数はわかっていない。


「巌流島(がんりゅうじま)への司令部移動は見送る。すでに、移送済みの指揮官は船にて待機。全艦対空警戒及び輪形陣へ移行。間隔を長くとれ!」

「了解、機銃オペレーターは攻撃準備。甲板作業員は退避せよ!」

「全航空母艦に打電、航空機部隊発艦せよ!第一から最大第5波攻撃まで許可。以上!」


艦隊は対空陣形へと移行する。

駆逐艦、巡洋艦、戦艦、航空母艦と順に並び、敵の攻撃機を待つ。




航空母艦 呑龍


「時間がないので、手短に話す。訓練通りにやれ!偵察機によりモンゴル帝国の機動部隊を発見した。これを雷撃、爆撃により無力化する。搭乗員割は昨日と同じ。一隻でも多くの船を沈めろ!攻撃開始!」


艦内は多くの足音が響き渡っていた。

艦を揺らすまでに…。

見知った顔の兵士が航空機に乗り込み、飛行甲板から空に上がる。

彼の友人の山田も同じように空に飛び上がった。

青野は彼らを見送ると、彼らよりも身軽な航空機に乗り込んだ。

そして、練習したように飛行甲板から飛び立つ。

その時間は永遠のようにも感じられた。

青野は言い知れぬ不安と、何かあったら必ず助けてくれるという不思議な安心、ああ、これはきっと悪い夢であるという理想的な確信を胸に甲板を蹴った。

壮観だった…こんなに心強い艦隊であれば勝てるとそう思った…。


「…敵機。」


遥か遠くから戦闘機が見えた。

丁寧に魚雷と爆弾をぶら下げ、迫って来ていた。

味方の航空機は彼らと出会ったのだろうか…。

轟音が空に響いた。

戦艦が対空弾の射撃を始めたようだ。

青野は燃料系と味方の砲撃を気にしながら雷撃機を先に潰す。

海面すれすれを飛んでいる雷撃機に対し青野は上から機銃を喰らわせた。

雷撃機は海にぶつかり、潰れた。

青野は最後尾の雷撃機を落とすと呑龍の上に戻った。

そして、青野は呑龍に着艦し再び飛び立った。

安心していた…これならきっと…彼らも戻ってくるに違いないと…。

青野は発艦した…そして、艦隊の進行方向の敵を探す。

だが、まだ来ていないようだった。

呑龍に戻ろうと高度を上げた時、一瞬ではあったが敵の航空機が見えた。

明らかに呑龍に目指して飛んでいた。

呑龍からの高角砲による攻撃、そして、機銃の曳光弾が見えた。

呑龍は一機、撃墜したもののまだ、敵が残っていた。


「…つ。」


身体にGがかかる。

無理もない、無理やり高度を下げたからだ。


間に合わない…。


そう、思ってしまった。

だが、山田の乗る飛行機が見えた。

彼は私よりも先に敵機を撃破することができた。

安心したものつかの間。山田の背後に爆弾を捨てたF6Fが迫る。


「…山田!」


私は、確かにそう口にした。

必死になって敵の尾翼を追いかける。

だが、山田の機体は落ちていった。


「…。」


ひどく怖くなった…。

だが、怒りは…。

引き金を引き、弾を打ち出した。

教官…仲間の記憶が走馬灯のように思い返された。

そして、呑まれていたことに気がついた。

自衛隊員ではなく、ただの兵士になりつつあったことに…。

攻撃した機体を見た…。

燃えながらもこちらを殺そうとしている。


「…。」


青野は敬意を持ってその機体を壊した。


「私は、あなたを忘れない…。」


そう彼は口にした。

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