第54話 モンゴル帝国攻略作戦 Ⅵ 約束された功績
バイカル湾近海
戦艦 Arc de Triomphe(ラルク・ドゥ・トリヨーンフ)
「艦長、司令部の全ての人員を軽巡巌流島に移送しました。駆逐艦登別、Kumar(クマル)、Уруша(ウルシャ)、Амазар(アマザル)と共に潜水艦母艦艦隊に合流します。先の戦闘で、主要艦艇である航空母艦狩龍が大破、空母羽沢沈没、空母羽広、青羽と共に中破、空母迅龍、轢龍の2隻小破、戦艦曙が小破、戦艦門真(かどま)は大破沈没。他の駆逐艦沈没3隻大破5隻、中破2隻、小破15隻。巡洋艦沈没2隻、大破1隻、中破2隻、小破1隻です。」
「空母の修理にはどのくらいかかる?」
「狩龍はおよそ2ヶ月程度かかるでしょう…応急修理は施しましたが明朝の作戦には参加できません。羽広、青羽はあと3時間あれば作戦の続行は可能です。」
「空母狩龍は放棄する。」
「…自沈させるのですか?」
「自沈はさせない…だが、放棄とする。使える戦闘機を他の船に運び出せ…。」
「はっ!」
国木田は、そう口にした。
空母狩龍艦長、Черных(チェルヌイフ)・Давид(ダヴィード)は、敵の航空機の攻撃により艦橋ごと消えた。
そして、空母狩龍は艦橋を失った後も敵の攻撃に耐えた。
だが、もう作戦能力は無かった。
飛行甲板に大きな穴を開け、船は黒くなっていた。
狩龍の艦長であるダヴィードには、酒に誘われることもあった。
いつも楽しそうに彼の家族の話をしていた。
今は、もういない…。
「予定通り、戦艦による攻撃を行う。先の戦いで損傷した小型艦艇は応急修理終了後、艦隊司令部のある潜水艦母艦艦隊に合流せよ。被害の大きい駆逐艦5隻と巡洋艦1隻は艦長の命令に従い行動せよ。場合によっては船の放棄、自沈を許可する。他の艦艇は船員の救助に当たれ…。航空母艦は呑龍を旗艦とし予定通りに作戦を遂行せよ。」
先の海戦の結果はひとまず勝利を収めた。
狩龍、羽沢、門真を失ったものの敵戦艦5隻、敵空母4隻を沈めることに成功した。
これで、空母の数は優勢になったとは言える。
だが、肝心の戦火の確認が曖昧なところがあり実際に沈めたのは2隻だとする。
モンゴル帝国の保有する空母は9隻あり、先の戦闘では6隻のみだった。
まだ、3隻…そして、無傷の状態で残っている。
それに対して連合は10隻の空母のうち2隻を失った。
艦載機による物量で挑んだものの完全な勝利とは言えなかった。
次は、護衛のための戦艦が2隻となる。
モンゴル帝国の陸上基地からの航空機による反撃を考えて…それは失敗した時のことだろう…。
門真が沈没した今、戦艦による陸上基地砲撃が味方の空母を救うことになる…そう考えている。
「これより作戦を開始する作戦終了時刻まで全艦無線封鎖。目標敵港湾施設!」
戦艦6隻、巡洋艦5隻、駆逐艦12隻を率いて陸を目指す。
当初の計画されていた数よりも少なり参加していたであろう艦のすき間を埋め、新たに陣形を組み直した。
戦艦Grande Arche(グランダルシュ)のみ機動艦隊と共に行動する。
すでに、作戦自体は狂っていた。
しかし、それは双方同じであった。
まだ、姿を見せていない空母は仲間の血により士気を上げ再び日仏露連合機動部に襲い掛かろうと日を待っていた。
けれど、日を待たずして彼らは同じ境遇の物を待っていた。
かつて栄華を誇ったそれは、今はただ夜の物として音を奏でるのだ。
日仏露連合 ウンドゥルハーン前線基地
昼食を取った昇(のぼる)は、休憩時間を貰っていたので仮眠を取っていた。
武器や装備の点検を終え、後は降下するだけだった。
仮眠を取った昇が司令部に向かうとサイレンが鳴った。
すぐさま、逃げようとするが司令部に向かう兵士が大勢いたためその波に乗り司令部に向かった。
司令部では、兵士が大声で叫んでいた。
「どういうことだ!」
「他の部隊はどうしたんだ!」
「全滅なんて…するわけないだろ!撤退中の味方がいるかもしれない!」
「このままだと、杭州まで押し返されて!この基地は孤立するぞ!」
「野戦病院に居る親友は大丈夫なのかだけでも教えてくれ!」
俺が、この時戦場がどうなっていたのかを知ったのはだいぶ後になってからだった。
モンゴル帝国によるありえない早さでの奪還作戦により前線でもなかった。はずの場所にモンゴル軍が押し寄せ攻撃してきた。
だが、緊急招集されることもなく俺はグライダーに乗り込んだ。
杏樹やロラ、曹長にも会うことができずただ詰め込まれ空を飛んだ。
「小隊長!」
「どうした、Евграф(エヴグラーフ)?」
「敵がが武漢市に張った防衛線を突破したというのは本当ですか?」
「わからん!」
「しかし、全滅したというのは…。」
「よほどの意地っ張りでもない限り投降するだろう…。吉安市でまた防衛線を張り直しているとは聞いた。それに進軍が速すぎて戦車では追いつけない馬を利用したとしてもだ。おそらく地下にトンネルでもあるか、匿っていたのだろう…。」
「上陸部隊は無事に上陸できたんですか?」
「それもわからん!戦艦は全部出発した。さて、そろそろだ!みんな、作戦はいいな!俺達はこの若い伍長を要塞の近くに届け後方からくる部隊の為に旗を上げ伍長が攻略した要塞を確保する!中にいる敵は伍長が全て倒してくれる!いいな!伍長…何か一言…。」
「…。」
急に話を振られ驚いた。
だが、他の兵士は俺よりも年上であったが真剣にこちらを向いていた。
「要塞の中に侵入した後、その後の連絡はできない!だから、時間通りに来てくれ!遅れたら、干し肉にして食っちまうからな!」
ハハッつと軽く兵士が笑った。
「そりゃいいや、生きていてくださいよ?」
「全員、用意はいいか?降下まで…4,3,2,1…降下!」
一瞬、慣性で体が浮くような感触を受けた。
だが、次に機体は下へ下へと向かう。
味方の爆弾か、対空砲か…。
大きな音が響き渡っている。
数秒後、機体は地面に叩きつけられるようにして地面を滑った…。
「ささっと、降りろ!」
「B分隊はあの建物を押さえろ!伍長、こっちへ!」
敵は居なかったがすぐに来るだろう…ある兵士は急いでガソリンの入っているタンクを取り出しグライダーにかけた。
俺は、小隊長と共に要塞を目指した。
「…ここです。」
「伍長…俺は、あんたがどういう人物かは知らない。だが、奇跡を起こせるなら見せてくださいよ。幼い頃からジャンヌさんやカチューシャさんの話を聞いて…。」
「小隊長、早くしてください!」
「…そこにかけた梯子から中に入ってください。陽動を行います…ご武運を…。照明弾、放てー!」
小隊長はそう言うと走っていった。
「…。」
肩にかけているモシンナガンを気にしながらすぐにPPSh-41に持ち帰る。
周りに敵が居ないのを確認した。
夜だが周りが見えないというわけではない…。
カチューシャとの訓練で夜間でも行動できるようにはなってた。
昼間のような明るさで見えるというのではなく、緑色の線で周りが見えるような感じだ。
敵の塹壕に近寄ると兵士が二人ほど居た、気の毒ではあるが有刺鉄線を飛び越え右横から一人目をモシンナガンの銃剣で差し、そのまま弾丸を放つ。
二人目はペペーシャを3発連続で撃った。
もうばれてしまったようなので、モシンナガンをリロードし一人目を殺した。
そのまま、塹壕の中を進み敵に会うごとに引き金を引き、小部屋に手榴弾を投げ込む。
すぐに、ペペーシャの弾薬はつき敵の兵士が持っていたガバメントを奪い、そのまま撃ち続ける。少なくとも12以上は敵を倒しているはずだった。
だが、敵の数は減らない…。
手榴弾も全て使い…そして、時間になった。
ようやく、最後の一人を倒した俺は返り血で赤くなった顔を袖で拭き、血に濡れて真っ赤になったモシンナガンと敵の兵士が使っていたリー・エンフィールドをズボンで拭き。
トカレフと敵から奪い取ったガバメントの2丁を持ち要塞から抜け出した。
もうトカレフの弾は無いのに…捨てられなかった。
要塞は侵入した時よりも赤く汚れ、ようやく止まった爆発音も止み静寂に包まれた。さながら、洞窟のように…。小隊長の言っていたトンネルも実在するような気もする。
俺が殺しきれずにただ、何かを話そうとしている彼に弾丸を落とし命を奪う。
人の体の硬さをナイフ越しに感じた手はわずかに震えていた。
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