第50話 モンゴル帝国攻略作戦 Ⅱ 江西区作戦司令部

日仏露連合支配領域下 釜山(ぷさん)


装甲艦波照間(はてるま)から釜山港に下りた。

すでに多くの味方の艦船が停泊しており荷物の積み下ろしを行っていた。


「…コンテナ?」

「ん?どうしたの昇(のぼる)?」

「いや…コンテナ船なんてあるんだなって…。」

「見たことないの?」

「見たことはあるよ。ただ、何というか珍しいというか…。」

「そう?連合のほとんどの港ではコンテナ船による大規模な輸送が可能になって物資がたくさん輸送できるようになったのは…そんなに最近じゃないけど…。」

「そうなの?」

「ええ、まあ…この港に最初はクレーンも無くて私達が乗ってきた波照間みたいな…旧型輸送船による設備しか無かったそうよ。」

「そうなんだ…杏樹(あんじゅ)は、そのことをどこで?」

「与那国島が攻撃されてすぐに連合はモンゴル本土へ侵攻したわ。それで、与那国島奪還作戦開始前…ようするに昇が私の分隊に来る前に行われたブリーフィングで説明されたの…だから、あなた以外のメンバーは知っているわ。」

「…そういうことか。」

「この後、作戦司令部でブリーフィングがあるからもう少しくらいは戦況もこの地域のことも良く知れるはずよ。」

「わかった。」


装甲艦波照間を後にしたC分隊は江西区(かんそぐ)の作戦司令部へとトラックの荷台に乗り向かった。所々に戦車が通ったと思われる跡や銃撃戦の痕跡、遺体を処理するために掘られた大きな円錐形の穴の中心には黒くなった地面が有った。



日仏露連合支配領域下 釜山 江西区 作戦司令部


作戦司令部の周りは破壊された家屋などの建物のがれきをコンクリートで固めた思われる壁や周囲を取り囲むように作られた堀、鉄条網と機関銃座、歩哨につく兵士達、移動用の地下トンネルなどの厳重な警備、防衛機構が作られていた。作戦司令部の前でトラックから降りてバルロー曹長に続いて作戦司令部へと足を運ぶ。建物はもともと民間用の施設だったのだろうか…それとも連合が作り上げたのだろうか…ここが占拠される以前に何か書かれていたと思われる…そんな感じのする塗り替えられた壁が見受けられた。

しばらく作戦司令部内を進むと兵士が立っている扉を見つけた。

バルロー曹長は、ここで待つようにと言い木村軍曹と共に扉の前の兵士に所属を言って部屋の中へと入っていった。

無言で待つこと5分くらい…木村軍曹は部屋から出てきた。


「軍曹、バルロー曹長は何と言いましたか?」


俺は、そう木村軍曹に聞いた。

しかし、軍曹から返ってきたのは別の言葉だった。


「バルロー曹長はこの後に行われるブリーフィングの為、作戦司令部での作業に取り掛かる。それまでの間、部隊の指揮は私が行う。我がC分隊はブリーフィングまでの間、作戦敷地内での待機とする。各員食事を取るなど有効に時間を使え。だが、長篠(ながしの)伍長はピョートル様からの特命により作戦司令部の指示に従い行動せよっとのことだ。それでは、長篠伍長。作戦司令部へ。他のメンバーは私に続け!」

「「「はい!」」」

「それじゃあ、昇!また、あとで!」


去り際に坂上(さかがみ)はそう言うと、他のC分隊のメンバーと共に来た道を戻っていった。


「あなたが、坂上伍長だとは思いますが…一応、規定なので所属を言ってください。」

「日露仏連合陸軍第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊所属、長篠昇伍長です。」

「…はい。入室を許可します。…どうぞ。」


バルロー曹長と同じ段取りで部屋の中に入った。

中に入るとバルロー曹長とこの基地の司令と思われる人物、そして、髪の黒い日本人だと思われる男性が居た。


基地司令の名は伊集院(いじゅいん)権蔵(ごんぞう)という。

そして、その横にいるのは山中(やまなか)晴幸(はるゆき)という名だった。


「基地司令、特務少佐…彼が長篠昇伍長です。」

「…ずいぶんと若いのだな。君のことはピョートル様直々に聞いているよ。与那国島ではご苦労だった。今回も楽ではないのだがね。…バルロー曹長は、ブリーフィングの用意をしたまえ。特務少佐は彼のことを頼む。まあ、最もその為の特務少佐であるがね。長篠伍長は特務大佐と共に別室に行きたまえ。」

「はい、了解しました。」

「では、私はブリーフィングの準備に取り掛かる。では、後は頼む。」

「坂上伍長。」

「はい!」

「移動するのでついてきたまえ。では、基地司令、曹長また後ほど。」


俺は、この特務少佐と呼ばれる男と共に部屋を出て左に歩いた所にある部屋に案内された。

机と椅子があるだけの殺風景な部屋だった。

だが、なぜか木箱が置いてあるなどして、少し窮屈な感じもした。

部屋に入ってすぐに特務少佐は口を開いた。


「…はじめまして…というのはやはり変だな。ああ…もう少し部屋の中に入ろうか…対策はしているがやはり階級がある以上誰かに聞かれるのはさすがに困るからね。…ふぅ…そんなに硬くならなくてもいいぞ、伍長…あっ、すまない。長篠…昇君。」


さっきまでとは違い、特務少佐は緊張感を解き、隙を見せた。

となると、今後はこの人が何者であるかだ。

ピョートルさんと基地司令が話しているということは、桜やカチューシャが話を通してくれたのかもしれない。

だとすれば、この人は大方どういう人なのか予想は着くのだが…。


「いえ、いいんです。この呼ばれ方も慣れましたし…。」

「それは、嫌な慣れだね…。」

「…あなたは一緒に来た人…ですよね?」

「正解…。ああ、自己紹介もまだだったね…。にしても、どうして私が入間基地に居た人だと確信したんだ?」

「あなたに会う前に刑部(おさかべ)さんという方に会ったんですよ…。それと、あなたはさっき「「嫌な慣れ」」って言いました。基本的に呼ばれ方に慣れっていない時は降格、された時か昇進した時です。素性を知っているのであれば比較的…あんまり良い言い方じゃないですけどポジティブに受け取るはずです。でも、あなたは後ろ向きな言い方をしたのでそうじゃないかなって…思いました。」

「…確かにそうだね。だが、私はやっぱり…。…ああ、そうだ。私の名前は山中晴幸。今回の作戦の責任者だ。陸上自衛隊第一空挺団第一普通科大隊第一中隊長。入間基地がここに来てすぐ私は田中(たなか)昌隆(まさたか)基地司令の指揮下に入った。確かに問題になるかもしれないが何より…今後のことが心配だった。基地を離れ勝手もわからなかったから何よりもそうすべきだと思ったからだ。…それから、しばらくの間は日仏露連合の他の基地に行ったりして他の隊員とは別れてしまった。」

「そうですか…。」

「君は、あの後どうしたんだい?」

「カチューシャや桜に訓練を受けたり、この身体を貰ったりしました。…それと、戦場にも…。」

「…私たちの居た世界にも与那国島にも陸上自衛隊の駐屯地は存在する…だけど、この世界よりも規模は大きくないしあそこにあった飛行場も民間のものだった…。」

「やはりこの世界は違うんですね。」

「この世界で使われている兵器や、基地で使われている資材を見てもどの程度まで連合が発展しているのかはわからない…だが、やはりオーバーテクノロジーだと私は思う。今回作戦にするエンタープライズ型空母もそうだし、長門型や金剛型の戦艦も建造されている…。時代背景からすると第二次世界大戦前が妥当だとは思うのだが君や私の体のようにありえない技術すらこの世界は獲得している。」

「…そうなんですか。」

「君は、そう実感したりはしないのか?」


晴幸は昇に尋ねた。

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