第45話 与那国島奪還作戦 Ⅳ 陸空挟撃

一度、空に上がっていしまえば俺はもう兵士とか階級とかではなく人間だった。

航空機乗りは潜水艦の乗組員と同じように機体の周りには透明な地獄に包まれている。

この機体が壊れてしまえば俺は、すぐに死んでしまう。

そんな場所に俺は居る。


「あっ、あーっ、飛行中の航空機聞こえますか?こちら、連合海軍軽巡洋艦巌流島(がんりゅうじま)応答されたし。」

「こちら連合空軍鳳蝶(アゲハ)小隊、久部良岳に向かい飛行中。」

「了解、予定通り行動してくれ。本艦から偵察機はまだ敵を発見できていない。陸上部隊が何らかの形で航空支援を必要としていた場合すぐに支援してくれ。陸上部隊との通信は情報が錯綜する為時間がかかる。現場での判断を優先してくれ、以上。通信終了。」

「各機、聞こえたな。予定通り低高度で侵入する。攻撃を受けたらそいつがモンゴル軍だ。地上からのシグナルを見落とすな!」


隊長機が、高度を下げる。

地面に這うようにして久部良岳に北側から侵入する。

対空砲火にひやひやしながら俺は、機体を操る。


…あれは。


地表に不自然な光が見えた。

機体をその光が右側になるようにし、それを見る。


「アトラス、地表にトーチのような物を発見。」

「了解、ハンター付近の様子を確認してくれ。ストラトと私は山の南側を確認する。」

「ストラト、了解。」

「了解、機長!」

「ハンター、案内する後ろについてくれ。」


俺は、ハンターと共に右に旋回して今度は上から斜面をなぞる。

その場所には、やはりXの形になっているトーチのような物が確認できた。


「イーター、地上に動きあり、機関銃座と思われます。もう一度、旋回して攻撃を行いたい。」

「了解。こちらからも確認できた、高度を上げる。」


地表では黒い点がもぞもぞと動きそして、今後は動きが止まり。

また、奥から新しいのがやって来た。


旋回をして、再びその場所に戻ってきた。

銃口が地面からこちらに向けられる。

おそらく地上部隊と交戦しているのだろう。


俺は、地面をなめるように地表に弾を放った。


「爆撃、用意。」

「撃てっ。」


続いて、ハンターが機銃と航空爆弾による攻撃を行った。


「イーター、戦果を確認したい。」

「了解、分隊右旋回。」


地表を確認すると味方の陸上部隊だと思われる人影が2つ確認できた。

そして、後方にも2つ動くものが確認できた。

トーチのような物は、どこかに吹き飛ばされたようだった。


「攻撃の成功を確認。一番機と合流する。」

「了解。」


攻撃地点付近

「制圧、完了!」

「よしっ…付近に敵影なし…。」


運がいいことに、どうやら味方の航空機は気が付いてくれたみたいだった。

機関銃の破壊に成功し、制圧できた。

足元に違和感を覚えながら辺りを警戒する。


味方の空爆後に手榴弾を1つ使ってしまったので残り手持ちの手榴弾は1つだけだ。

ロラが、レフと木下に呼びかけて一度集まる。


「やはり、戦車は見当たりませんね。」

「ああ、そうだな…。」


レフの言う通り戦車はどこにあるのだろうか?

今も、息を潜めているのかそれとも放棄したのか…。

後者であればいいがおそらく前者だと考えられる。


「山頂は、他の部隊に任せて西崎方面に上りながら進もう。」

「でも、伍長…挟み撃ちになる恐れが…。」

「戦車は、今の機関銃より厄介だからね。バルロー曹長だったらここに迫撃砲を打ち込んで制圧したと思う。でも、戦車は違う。駆動系を破壊しない限り動き続けるからね。」

「対戦車地雷は持っていないのでやはり中にいる兵士を攻撃するのが、現実的ですね。対戦車ライフルでは装甲を破れはしません。」

「それは、わかっているよ。でも、攻撃しない訳にはいかないから。」

「それもそうですね、伍長。では、西崎方面に進みましょう。」


俺は、靴の裏を確認した。

何かついているような気がしたので地面に擦りつけ、その場を後にした。

この場にとどまった方が危険だと思う。

何から逃げ出すように俺は、その場を後にした。

機関銃の繋がったままの弾薬が無造作に分けられていた。


「…。」

「伍長、どうされましたか?」

「あそこの茂みを見てくれないか…。」

「はい…何か動いていますね。」

「味方か?」

「…味方ですね。…視線を感じます。」

「行ってみるか。レフ、ロラ行くぞ。」


茂みに4人で急いで近づく。

しかし、あちらに動きはない。


「動かないで!」

「くっ…。」


銃に付けられた剣の切っ先が俺に向いていた。


「…昇(のぼる)か。」

「坂上(さかがみ)伍長。」


坂上は俺を確認すると銃を下ろし身を屈めるように言った。


「良かった合流できたみたいで…遅かったじゃない。」

「途中で、機関銃を発見して制圧してきたからだ。」

「…そう、無事でよかった。それじゃあ、あの爆撃も?」

「ああ、味方の航空機が発見してくれたから良かった。機関銃は壊れたから後の部隊も大丈夫だと思う。」

「まあ、来てくれて良かったわ。木下、あそこに戦車があるから確認して。レフはそのでかいの持って戦車の右側面について。ロラは私達と一緒に行動。以上、行動開始。」

「了解。」

「はい、わかりました。」


レフが対戦車ライフルを持って移動。

木下は、双眼鏡で戦車を見始めた。


「杏樹(あんじゅ)、曹長は?」

「近くにいるわ。」

「連絡は取れる。ええ、木下お願い。2人とも移動するわよ。」

「了解です、伍長。」


俺と、杏樹と、ロラは戦車に近づいていく。


「いい、昇。曹長がまず迫撃砲で攻撃する。戦車の破壊ができなくとも付近にいる歩兵を倒せればいいの。あとは、私と木村軍曹が手榴弾を投げて戦車の撃破を狙う作戦だったのだけど少し変更ね。」

「伍長、曹長から伝言です。」


木下が匍匐でこちらに近づいて来た。


「わかった…曹長はなんて?」

「作戦に変更はなし、合流したレフと私は二人で伍長達とは別に攻撃します。長篠伍長とウォーリーさんは坂上さんと共に攻撃してください。攻撃タイミングは伝えた通りだそうです。では、私はレフと合流します。」

「気をつけて。」


木下がまた、匍匐で移動していった。


「さて、そろそろ…。」

「坂上伍長、敵に動きが…。」

「何…ちっ。」


向き直るとそこには二両目の戦車があった。


「一体、敵は何をしようとしているのでしょうか?」

「空港に攻め込むつもりね。」

「でも、空港は…。」

「おそらく敵にはタイムリミットがあったみたいね。」

「…タイムリミットですか?」

「敵の増援部隊が来るまで一時的に占拠するはずだったようだけど…来なかった。」

「撤退するって…ことですか?」

「悪く言えば無理な突撃ね。あの人数なら航空機が2機で足りるわ。」

「…でも。」

「そう、逃げたことろで海軍が待っているわ。だから、ここでとどめを刺すしかない。」

「…はい。」


不安そうなロラがうなずく。


「ロラ、大丈夫だって…。みんな居るから。」

「はい…あの長篠伍長。」

「んっ、どうかした?」


ロラは手榴弾を取り出した。

俺は、それをロラから受け取った。


「…受け取っておくよ。」

「はい、使ってください。」


何か爆発したような音が聞こえた。

そして、戦車の上にそれは落ちた。


「来た!行くわよ!」


坂上の声に続いて銃声が辺りから響き始める。

もう一方の戦車は、動き始め戦車の近くにいた兵士はこちらに向き直る。

でも、その時にはすでに引き金に俺は手をかけていた。


「手前の先にをやる。」

「ええ、それがいいわ。」


山の斜面を降りながら手榴弾のピンを抜き2秒ほど待ってから戦車に投げつける。

戦車の履帯の間に滑り込む。


炸裂音が響く。。


「砲塔が向いてる。」

「くそっ…。」


戦車の足止めには成功したが、まだ敵は戦うつもりらしい。


…こんなところで。


耳をつんざくような音が聞こえた。

俺は、そのまま戦車の砲塔に突っ込むような形で肉薄する。


砲塔を回転させて俺を離れさせようとするが俺は、それを躱し車体に乗る。

俺を撃とうとハッチを少し開けた所にライフルを差し込みそのまま発砲する。

車体の中がどうなっているのかわからないがそのまま一度手前にライフルを引き最後押し込みリロードしてもう一度撃つ。

通信アンテナに身体を預け、ライフルを左手に持ち落ちないように中をかき混ぜるように突きながらM1895(ナガン)を手に取り中に発砲する。

そして、最後に手榴弾を中に入れ俺はライフルから手を離し、逃げた。

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