第24話 健全は異常のようなもの。

入間基地


「確認した、任務に戻ってくれ。」

「了解。」


白人兵士が私の顔を覗き込むように終始視線を向けていた。

そんなに、珍しいのだろうか?

むしろ、こちらが顔を覗き込みたいくらいだ。


「山野さん、こちらも確認作業終わりました。それと、これが今度建設される滑走路の図面だそうです。」


坂野から渡された概略図を見た。

また、基地の拡張に際する案件だった。


「…さすがに、手が回らないぞ。大型重機のほとんどは技術発展のために分解調査中で施設科部隊は、工具でしか作業をしていないというのに。」

「大丈夫ですよ、日露仏連合から兵士の増員がまた来るようですよ。」

「またって、未だに上下水道の工事も十分に終えていないのにそんなことができるわけないだろ。第一、建設中の滑走路だってまだ、排水路すら堀終わってないんだぞ。」

「その為の増員…なんですかね。ですが、私も同意見ですよ。一時的とはいえそれまでの仮小屋を作ったりもしなければなりませんし。」

「…はあ。地下施設の建設は?」

「予定より難航しています。」

「ようするに、遅れているってことだろう。」

「はい。」

「…重機が生産されてもだ。一体何年かかることやら。」


同基地執務室


「これが、第3次拡張計画となります。」

「…どうも、ピョートルさん。」


交渉後から数日、田中(たなか)昌隆(まさたか)は、無事に入間基地へと戻っていた。

それまでの動向は無線を介して基地に残っていた自衛官とコンタクトは取っていた。


「…これは、また。時間がかかりますよ。」

「そうだな、我々としても大規模な工事になることはわかっているよ。しかし、そうだとしてもやはり作る必要がある。」

「それは、またどういった用件で?」


執務室には、田中の他に和元(かずもと)と話し相手であるピョートルがいた。

ピョートルは、長身で背の高く顔の整っているロシア人だった。


「ある人がそう言っていた…いや、娘かな。唐突な話だがその娘は未来をわずかばかり見ることができるそうだ。」

「信じられませんね。」

「まあ、そういうなよ。私と君にだって不思議なことはあるだろう。」

「つまり、今のようなことが起こりうるからそれもありえないことではないと。」

「そう、そういうことだ。」

「…今、私とあなた方、ロシア、フランスの人達と話せていることですかな?それに、ついては以前、聞きました。けれど、あいにく未来など信じられませんよ。」

「そういうと思っていました。ですが、今の状況までの経緯を考えると不思議なことではありません。」

「…あの空戦と、陸上部隊の早期派遣。あれが、その娘によるものだと?」

「そういうことだ。もっとも私は、どこまで未来が見えていたのかはわからないがね。」

「…そもそも、何で私達の兵器が効かないとまでは言わないが弱体化されているんだ?そして、その為に今、あなた方にF-15Jをはじめとする戦闘機そして、輸送機すらも譲渡しているのだが、一体どんな強化をしているんだ?」

「そうだな…少し長くなるな。」

「そういう方が、うれしいがね。」

「わかった、話すとしよう。」


ピョートルは椅子に座り直し、田中に目を向けた。


「さて、どこから話せばいいのだろうか。まあ、全部だろうな。まず初めに、この世界の歴史について少し話そう。それと、以前君に話したこととは違うことも。…この世界は、君らと私の居た世界とは違う世界だ。私は、何百年も前からこの世界に居る。そして、残念ながら私は君らとは違い死んだ人間だ。君らの身体が今、どのような状態になっているかは把握できないがおそらく無事だと思う。…これについては、無知で申し訳ないな。さて、話を戻して…この世界は、言わば平行世界とか、あるいは量子世界と呼ばれている。あいにく私は、物理については、ほとんどわからないというかまだ、この世界では発展していない分野だ。この量子による多次元間の影響が関係しているらしいが私にはよくわからない。しかし、人為的に引き起こしているのは事実だ。そう、つまり、私達はこの影響に巻き込まれてしまった。」

「…それが、巻き込まれた原因なのはわかる。しかし、そこからどうなっているのかを私は、教えてもらっていないぞ。」

「まあ、そう焦るな。でだ、この世界での技術の発展はこの現象を利用して発展してきた。そう、魔法だ。少なくとも、私はそう呼ぶがね。彼らは他の世界から物を引き込むことで技術を進歩させてきた。それこそ、文化や言葉まで。」

「…だから、彼らとのコンタクトができたと。」

「いや、それは外れだ。それはナポレオンの使っている魔法だ。」

「違うのか?」

「ああ、私が話せているのはボナパルトのおかげだ。私達の言語では私以外の言語だ。あなたは聞いたことが無いだろうがここの世界の住人は私の世界と同じような言語が複数あり、さらに、文化も模倣している。何でこんなことになっているのかわかるか?」

「いや、わからない。しかし、物を取り出しているのだとすればその中に文字があって、中には教科書とかそういう物もあるんじゃないか?」

「本当にそう思うのか?第一、言葉の本がどのくらいあると思う。しかも、昔だ。」

「…それじゃあ、なんでだ?」

「確証は無いが、私、山本、ボナパルト、そして、少女たちの他にも何人か今もこの世界にはいる。それよりも前に誰かがこの世界に迷い込んでしまったのだろう。おそらく、その人だけは偶然なのだろう。自然現象なのかもしれないな。」

「…死人よりも前の死人とは?」

「私には、聞かないでくれよ。まあ、凄い人だったんだろうな。とは言っても知識に関しては問題ないとは思うがね。」

「知識に関してはというと?」


ピョートルは少しはにかむように、言葉を止めた。

そして、恥ずかしそうにまた話し始めた。


「まあ、なんというか。特権みたいなものだよ。君らも自分が、知らない知識が頭にあったりするんじゃないか?」

「そんなのわかりませんよ、私も物忘れが増えていく年頃が近くなってきましたから。…和元君は、どうかね?」

「いえ、そんなことはありません。」

「…それじゃあ、死人だけのものか。」

「ピョートルさん、もしやそれは死後の記憶ですか?」

「いや、和元くんそうじゃないよ。そうか、なるほどな。」

「勝手に納得しないでください。」

「和元くん、落ち着いて…。」

「すいません。」

「ああ、すまない。私は、死んだ後の歴史、そして、死ぬ前の歴史を知っている。」

「…それは、歴史の教科書見ればわかることでは?」

「いや、そうではない。単に情報量が異常なまでに多いんだ。おそらく、君ら以上に。」

「…それも、魔法なんですか?」

「魔法なのだろう。…これも。」

「私も、使えますかね?」

「どうだろう?それは、わからないな。でも、魔法は君らの身体に働いているのは知っているんじゃないのか?」

「…あの時のことか。」

「まあ、他にも何かしらの違和感があるんじゃないか?」

「う~ん、私は、あまり感じていませんね。」

「いえ、司令。あなたも十分おかしいですよ。」

「なっ、冗談はよしてくれよ和元くん!」

「いえ、本当におかしいんですよ。」

「私のどこがおかしいんだ?この通り、健康だし。」

「…そういうところです。健康なのがおかしいんですよ。」

「健康なのがおかしい…ああ、そういえばここに来てから寝た記憶がほとんどないな。それに、目も痛くもならなかった。…それにやけに取材陣たちが静かだったのもそのせいか。」

「…感覚が狂っている。しかも、良い方法に。それって、私達は死んでいるのと同じようなものじゃないですか。」

「死んでいるか、一度も死んでいない者達の言葉だな。」

「…魔法か。ははっ、確かにこれは魔法だな。」

「何を笑っているんですか?」

「いや、これはいい感じのデメリットかもしれないなと思ってな。」

「司令、楽観的過ぎますよ!」

「これでよくは無いが良いんだ。いくら頑張りすぎても死なないなら、安心して職務に臨めるし休息も休息として機能する。」

「…何を言っているのやら?」

「休日は、子供と遊び回っても大丈夫ってことさ。」

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