第50話 キンバリーちゃん
この森のモンスター勢力として、3つの大きなグループが存在する。
1つは我らオーク族、次にハーピー族、そしてもう1つがゴブリン族だ。
それぞれは戦闘力、占領地域、数に特徴が出ており、ほど良いバランスを保っていた。
だが時折、私のようなレア種が誕生することでパワーバランスが崩れるのだ。
近年当然のことだが、オーク族は勢力を伸ばしていき他を圧倒していた。
他の2つもなんとか自分たちが生き残るため、あの手この手と打ってくる。
その中で昨年、ハーピー族が突如、全戦力で攻撃を仕掛けてきたのだ。
当初は簡単に蹴散らせると気軽に考えていたが、その先頭にはハーピーのレア種がおり、勢いをつけ瞬く間に、各地を落としていったのだ。
オークは種族全体として、一時は危ういところまで行ってしまった。
そこで我々は起死回生を図るため、精鋭20名による敵本隊への突撃をかけたのだ。
犠牲は出したものの、私が一騎打ちでレア種を破り、なんとかハーピー族を追い払ったのだ。
あの時は本当に危なかった。
たった数ヶ月であの成長、もしあのレア種をそのまま放置をしていたらと考えると震えがくる。
「あの時の悪夢を繰り返してはいけない」
みんなも同じ気持ちで頷く。あの時の戦いで種族の数は半分となり、身内を失わなかったものなど誰1人いなかった。
レア種はそれほど危険な存在で見つけたら即排除しなければいけない。それが我々が生き残る方法だ。
そしてついにゴブリン族にも、新たな脅威が現れてしまったのだ。
発見者はたまたま見つけたらしく、急ぎ知らせに走ってくれて皆の前で話してくれた。
「俺が見たのは西南の遺跡にある集落で、生まれたばかりのメスだった」
「あそこか! 去年冒険者に荒らされたとき落としておけば良かったぜ」
しかしあの時は我らもハーピーとの戦いでそれどころではなかった。
今でこそ落ち着いてはいるけど、まだ傷跡は深いままだ。
あの遺跡は魔素が濃く魔力が溜まりやすいので、今回のレア種の誕生もうなずける現象だ。
「族長! 攻めるにしてもメンバーはどうしますか?
ハーピーも今は大人しくしてるとはいえ油断はできません」
もっともだ! あの薄汚い鳥はどこから見ているかを分かったものではない。
いつも木の陰に隠れこちらの様子をうかがっている。
「あそこのゴブリンは60匹少々だったわね。普段であればその数なら5人もいれば十分。
しかし相手はレア種、油断はできない……キンバリー、前へ!」
族長の命令だ。
「お前を筆頭に精鋭14名でこれを駆逐せよ! あのハーピーの時のように期待をしているぞ」
ハーピーを見据えて短期決戦で仕留めよとのことだ。私もそれが1番だと思い、頭を深々と下げた。
「おおーーーーーー!」
待っていろ、レア種め! 私がお前の息の根を止めてやる。
すぐに準備をし遺跡へと向かった。それほど遠い場所ではない。我々は遺跡の近くに到着し集落の様子をうかがった。
聞いていた通りの数で、その中にレア種を確認することもできた。
レア種は仲間のゴブリンとギャブギャブと、はしゃいでいる。
実に楽しそうに石を投げ合ったり、声を合わせて拳を振り上げたりと、見ているこちらまで楽しくなる。
私もあそこに混ざりたい。…………ん?
なんだか彼らと手を取り踊りたい気分になってきた…………。
なんだ? ……なぜ私はそんなことを考えた?
イカン、今のがアイツの力だろう。危うく私も取り込まれるところだった。
こ、これまでにないぐらい危険な相手だ。
「わが善良で勇敢なるオークの戦士達よ。敵は少数で目の前にいる。
しかしあのレア種は我々の心を乱す恐ろしい技を持つみたいだ。最悪の場合、我らの全滅もありえる」
みんな緊張し、ざわめいている。しかし最悪の事態は想定し対策を練るべきだ。
「だが我々は負けることは許されん。
オークの未来のため必ず勝たなくてはならない。レア種を狙い一点突破だ!」
しかし私にはあの技に対抗できる術を思いつくことができない。
ハーピーの時と同じ結果になることを信じて突き進むしかないのだ。
「全員、とつげーき!」
合図とともに走り出したが、マズイ! ヤツめ1番後ろに下がっている。あの技をかけられて、あの場所までもつか?
次々とゴブリンを倒し突き進む我らオーク。
ゴブリンも意地を見せてかかってくるが妨げにもならない。
「ええーい、邪魔だ、どけ!」
正面から来たゴブリンを脳天一発叩き潰した。
しまった! 目を離したスキにヤツを見失ってしまった。これもヤツの作戦か?
こちらの戦力は2人負傷しただけで、まだまだ充分戦える。
しかしヤツが消え、このアトの展開が読めないとなると不安になってしまう。
いや隊長である私がオタついてどうする、しっかりしろキンバリー。今できることを考えるんだ。
「全員周囲を警戒して、レア種に備えろ!」
円陣を組みゴブリンとの距離を取ろうとしたで時ある。
どこからともなく現れた冒険者がこの戦場に踊り出てきたのだ。
瞬く間にゴブリンを殲滅すると、じっとこちらを見つめてきた。
この冒険者は強い。こちらの精鋭が為す術もなく一撃で沈められていく。
まるで踊るように優雅な動きで、稲妻のごとく激しくたたきつける!
仲間がやられる光景に、不思議と怒りや恐怖はなく私は見惚れていた。
今までの誰よりも強く、そして美しい……。
こんな雄がこの世にいたなんて信じられない。すっごくカッコいい……イイ……イイわ!
「私はキンバリー。オークの族長の娘にして、強き夫を求める者。ぜひ私と結婚をしてほしい」
キャーーー! 私がプロポーズをしてしまった! 恥ずかしい、でも言わずにはいられない。
何もせず彼を逃がしてしまうなんて考えられないし、夫婦になれるなら何でもするわ。
だがこの冒険者は私の言ってることがわからないみたいだ。
どうしよう……このままじゃ終わっちゃう。イヤだ、なんとかしてこの気持ちを伝えないと!
私は胸に手をやり、それからその手を彼に差し伸べる。
――私のハートは貴方のものです――
何度も何度も繰り返す。届け私の想い! 私はあなたを愛しています。
あぁ、ようやく伝わったみたい。彼の大きく頷いてくれている。
ああ、なんて幸せなの。ほら彼は武器を収め拳を握っている。
こうすればいいのね、手を伸ばし身を委ねようとした時だ!
急に姿が消えた、あれどこ?と思っていたらお腹にきつい1発をもらった!
ぐっぐ~~。すごい! これが……彼の……愛?
頭がクラクラして足も地に着かないわ。
でも、何故かいきなり彼がプレゼントを私の前に出してきた!
キャッ! いつのまに用意をしてたのかしら? 素敵だわ。
こんなサプライズで女心を掴むなんて、意外とこういうことに慣れているのかも。経験豊富な雄もいいわね、頼りになる。
出会ってすぐに結ばれるってこんなこともあるのね。これで私も晴れて既婚者だわ。
ついに私も『うちの旦那がさぁ』とか、『私のとこのテーシュは』なんて会話ができるのね!
あぁ、お母さん私幸せになります、いえ、既に幸せです。
こみ上げてくる感情が止まらない。突如、私の中で何かが変わった。
猛々しいだけの心が穏やかになり、1つの愛が生まれたのだ。
そして彼のこともよくわかり、思わず跪いてしまう。
「マイマスター(私の旦那様♡)
大いなる力の持ち主、マイマスター(私の旦那さま~ん♡、キャッ二回言っちゃった)
この時より微力ではありますが、盾となり、いかなる時もお守りいたします」
ああ、愛の力で彼の言葉まで話せるようになったわ!
「じゃあ、この僕についてきてくれるんだね」
キターーー! 俺について来いって、もう最高! 雄はこうでなくっちゃ!
イヤだって言っても私を連れ回すんでしょ? うふふふふふっ。
「命尽きるまでどこまでも」
私の体力は底なしです。どこまでもついていきますね、ねぇー私の旦那様。
こうして私はマイマスター(愛しい私の旦那様)の従魔として、共に人生を歩み始めました。
うふふふっ、このHPポーション一生大事にいたします。
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