僕らが行く道、帰る道

桃色金太郎

僕の願うかたち

第1話 ステルススキル

 僕の名前はハットリユウマ。14歳にもなったばかりです。


 僕には大きな悩みがあります。


 それは僕に、存在感てモノがないって事なんだ。

 大げさじゃなくてホントーにないんだ。


 例えば、目線が合わないのはしょっちゅうで、声をかけても振り向かれないのは当たり前。


 逆に、何かのグループに紛れ込んでも、注意されることなく1日過ごせるほどなんだ。


 でもたまに、僕のことを気付いてくれる人もいる。


 今もほら、クラスメイトが仲間とを見て喋っている。


「あれって転校生か? いきなり席に座っているって、ちょっとおかしくない?」


「いや、あれは~……あれだよ。名前を忘れたけど、たぶん以前からいる子だよ」


 出ました。存在感のない僕に、辛辣な一言。

 入学からずっと一緒のクラスなのに、仲間として認識されていない。……悲しすぎるよ。


「やだなぁ、この前まで君の後ろの席だったよ」


 僕が勇気を出してそう言っても、クラスメイトはキョトンとした顔で、不思議そうにしている。そして。


「えっと……何かの話しをしていたよな? ……うーん、まぁいいか」


 うーーーーっ! まただよ、このやり取りこれで何回目?

 毎度毎度同じこと言ってさ。


 サザエさんのオープニングのアニメですら、時々変えてきているよ。

 たまには、『ゴメン、ゴメン』とか言ってほしいよ。


 これだけ聞くと、イジメじゃないのって思うよね。僕も最初疑ったよ。


 でも彼らはわざと無視したり、意地悪しているんじゃないんだ。


 不思議な事なんだけど、僕の声や姿の印象がスーッと消えるみたい。


 まえに一度、明るいキャラで接したら何か変わるかもしれないと思い、プライドを捨てて大バクチに出てみた。


 明るいキャラといえばお笑い芸人。


 関西風ツッコミをして、一気に人気者になってみせると意気込んで、〝あれ誰だ?〞を待っていた。そして『あっ、来た』とすかさず。


「ま、前からおるっちゅーねん」


「…………はぁ?」


 し、しまった。声小さすぎたー。

 ヒィィィ! 恥ずい、恥ずい、恥ずかしすぎるー。大スベりで心折れそう、大撃沈だー。


 ……でもこれで良くも悪くも、印象には残ったはずさ。

 もしかしたら、これで変なあだ名とかつけられるかもしれない。それはそれで嫌かな。


 でもそんな心配をよそに、次の週には同じ人がまた〝あれ誰だろう?〞て本気で言っていたよ。


 あの大スベりに意味すらもないなんて、信じられないよ。変なあだ名ほしかったな、グスン。


 僕自身ただの友達のいないボッチだと思っていたけど、ここまで印象に残らないとは想像していなかったよ。


 最終的に、〝このクラスには、いつの間にか居なくなるナゾの転校生がいる〞なんて噂になっているし。


 はははは……。そうなんだよね、気づかれない方が悪いのかな。


 僕もみんなに注目してもらおうと、色々頑張ったけど何やってもダメ。

 このメンバーじゃ、どう足掻いても抜け出せない事を悟ったよ。


 それから1年間を我慢して、2年のクラス替えの時に挽回しようとかけていた。

 そう、息を殺して待っていたんだ。


 なのに! 今年はクラス替えやらないって、どういうこと? 

 他に、逆転の方法なんか思いつかないよ。


 も~、どうしてこんな風になっちゃうのかなぁ。

 誰か教えて欲しいけど、その教えてくれる友達がいないんだよね……はぁ。


 こういった日常に、先生がとんでもないことを言い出す時がある。


「よーし、今回の発表グループは好きな者同士4人で組んでみろ」


 ヒイィィィィ! 僕にとっては、死刑宣告みたいなものだよ。先生分かってる?

 普通に席順でいいじゃんか、涙でてきそうだ。


 ほら案の定、最後に余ったのはいつもの3人。


 〝独り言のユキジ〞

 〝多様性ヲタのコウタ〞

 そして僕〝絶対ステルスのユウマ〞


 3人合わせて〝ステルスぼっち三隠さんいんジャー〞


 僕が勝手につけたあだ名だけど、言っていて自分で悲しくなる。


 この3人も2年目だし、慣れてもいい頃なのにいまだにお互い緊張する。


 他の班はテキパキ進めていく中、僕らは沈黙したまま。

 いつも誰かが先に声を出すのを待ってしまう展開に。


 地味なもの同士の、無言の駆け引きがはじまるんだ。

 まっ、実際にはなにも起こっていないんだけどね。一番っていうのが緊張するんだよ。


 何もしないと先生に怒られるし、勇気を出して話し出さないと。


「あ、あの~……」


 草食小動物が驚いたかのように、ビクンとする2人。緊張が走るのが分かる。


「ぼ、僕らも課題を進めようか」


 それを聞き、2人はほっとした顔になった。


 最初の出だしだけなんだよね。すごく緊張するから、そこさえクリアしてしまえばあとはスムーズに進む。


「あ、あの~」


 はぁ、この多様性ヲタ君にも、名前を覚えてもらっていないな。


「いつも仕切ってくれて……あ、ありがとう」


 でも、存在は忘れられていないみたい、よかったよ。


 この子も僕と一緒で、緊張しているだけ。誰かと喋りたいんだ。

 たぶん勇気を振り絞って出した〝ありがとう〞なんだ。


「ううん、いいよ。……3人で頑張ろう」


 誰だってフトした切っ掛けで、環境が変わってしまう事があるかもしれない。


 この子達も小学生の時は、今とは違ってたのかもしれないし、今度もう少し話してみようかな。


 まぁ、こんな感じが僕の日常なんです。


 だからここまで来ると、部活を選ぶときも団体競技ではなく、必然的に個人競技ばかりに目がいき、つい水泳部を選んじゃった。


 それにね、ボッチだって悪いことばかりじゃないよ。


 無駄なお喋りをしないから、授業や部活にも集中できるし、結果的に両方ともいい成績を残している。 エッヘン!


 ただ、みんなが注目する一番ではなく、2番目か3番目でしかない。

 僕だって目立ちたい、注目されたいのに上手くいかないや。


 授業が終わり、今日の部活も先生の長話しから始まった。


 いつも顧問の先生は、中学生はまずは体力作り。記録を気にするなと言う。

 でも、記録にはついつい目がいってしまうよ。


 だって唯一、自分の存在をアピールできる方法なんだからさ。


 それに言われた練習をちゃんとこなして、この一年で成長が実感できているから仕方ないよ。


 みんなには人気がないけど、グラウンドでの練習が効果出てきてるんじゃないかと思う。


「今日の練習が終わったら集まるように。今度の大会の、レギュラーメンバーを発表するぞ」


 遂にきた! 僕も最近タイムが伸びて、県大会レベルまできているんだ。


 うまくいけばみんなに注目される。

 メンバーは間違いないと思うのけど、あぁ神様お願いです。僕にチャンスをください。


「アップの準備の出来た人から、外回りのジョギング行くよ」


 キャプテンに促されて、みんなゾロゾロと走り出す。

 僕も遅れてはいけないと、その中に加わった。


 僕もみんなも、この大会を目標に頑張ってきたんだ。

 何がなんでも出場したいし、注目されて目立ちたーい。


 日々の筋トレも、今やっているこの走りも、全てはその為に向けてやってきたんだ。

 僕は目立つための努力は惜しまないよ!


 そんなことを考えながら、学校の周りの道路を走り続けていると、急に変な音が聞こえてきた。


 ――ピッシューフン――


 なんだろう? 空の方から、聞き慣れない物音がしてきた。

 そして次に、黒い雨のようなものが降ってきた。


「うわ、なんだこれ? みんな早く学校に戻るよ」


 変な天気だと思いつつも、校舎に向かって急ぎ走っていると、昼間にも関わらず、辺りが急に夜のような暗闇になった。


「なに、何、どうしたの?」


「ドッキリか何か?」


「嘘、なんだよこれ! なにも見えないよ」


 突然のことで、みんなも戸惑っている。


 星の明かりで朧気ながら人影はわかるけど、それ以外は街灯もないし見分けがつかない。


「みんな静かに! と、とにかく落ち着こうよ」


 キャプテンの声だ、良かった! みんないるみたいだよ。


「キャプテン、これどういう事だよ?」


「僕に聞かれても分かんないよ!」


 周りをよく見ると、遠くなるほど闇が濃くなっていき、光だけでなく普段の町にある音まで聞こえなくなっている。


「地獄かよ…………」


「止めなよ、そういう事を言うの! そ、そうだ。みんな手をつないで、離れないほうがいいかも」


「そ、そうだね。手探りなら見えなくても……あ、誰かいた」


 次々に、みんなは近くの人を見つけていく。あわわわわ~! 僕も誰かと、くっつかなくちゃ。


「よし、みんな誰かは見つかったね?」


 ま、まだだよ! こんな所で1人になるのは嫌だ。

 ちゃんと言わないと取り残される。


「ちょ、ちょっと待って、僕まだだよ。おーーーい! おーーーーーい! ちゃんと僕を見てよ」


 僕は必死に叫んだけれど、誰も答えてくれない。


「ねーってば、お願い一人にしないでよ!」


 さっきまで聞こえていた声も小さくなるし、人影ももさらに薄くなっていく。

 光と共に発した声も、その闇に吸い込まれていくような不思議な感じだ。


 呆気にとられ、後ろを振り向いても同じ景色。

 周りには誰もいないし、だんだん不安が大きくなってきた。


「はっ! こんな時まで、ステルスぼっちを発動させないでよー」


 と呼んだその瞬間、僕の意識は飛んでしまった。


 僕が覚えているのここまでだ。

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