はじめましての距離~遅咲きの桜の下で~

大月クマ

ふたりの遅刻者

 はじめまして――何て言っている場合じゃないです!


「遅刻だッ!」


 入学式早々、遅刻なんてあり得ない!

 親が起こしてくれなかった……いや、親の所為にするのはよくないな。同じ種族だし……だということは、子供の頃から嫌になるほど思い知らされてきた。


 なんだけど……なんだけど――走らなきゃ!


 そう高校の入学式だ。

 スマホの時間が正しければ、後10分で入学式が始まる。


 なのに……


 今は学校の下見に来た時、通った道……通学路になる堤防の上を走っている。


 だが……


「やっぱ休憩……」


 全力で駅から走ってきた……5分ぐらい。

 体力が無いって、思っているかもしれないが、いや、ホントに辛いんだって、太陽が上がっているときはッ! 僕の種族は……


(桜がキレイだなァ……)


 堤防の上の道は桜並木が続いている。その一本の下に僕は座り込んだ。

 見上げれば今年は遅咲きの桜……その隙間からの日差しが強い。

 日差しが強いのは、僕の種族には辛い……ホント辛い。


(今年が、高校の異種族共学化初だっていうのに……僕が他の種族の顔に泥を塗るかな?)


 大人達がそうしたんだ。

 僕は関係が無い。人間と交流の結果だそうだが、子供達にも偏見を持たせないようにと、教育の統一も行われたとか。


 それが学校の共学化。


 とはいっても、絶対多数の人間と時間を合わせなければならないのは……辛い。

 スマホの時間を見ると、入学式が始まった時間だ。


(人間の中にでも、っていうのに、僕らまで合わせないといけないなんて……)


 そう、人間の変なの……昔、読んだ本を思い出した。

 人間にも魔法とかいろいろと使える者がいるという。だが、異端者として忌み嫌われた。差別されたのだ。


 例えば……そう、魔女だ。魔女はほうきを使って、空を飛べるとか。


 ただ、人間界に魔女なんていたら、すぐにバレるんじゃないのか。

 僕だってスマホを持っている。現代には100年以上前から、カメラなんか記憶装置はあふれているのだ。それに写らないのおかしな話だ。


 何か魔法で消しているのか?


 そう考えるのが自然だろう。記憶とかその記憶媒体の情報データを削除する魔法。そんなのが知らないだけであるのかもしれない。


 それがすべて可能であるか?


 ところで……だらだらと僕が突然なんでこんな話をているのか?


 いや、たまたまである。重要なことなのでたたまたまだ、と2回言っておく。

 見上げた桜がキレイだったので、スマホをカメラモードにして写真を撮ったんだ。


「あっ……」


 サッと風か舞い上がったかと思えば、目線の先にうちの高校指定の茶色いローファーが見え、それを履いている白くて細い脚、制服のチェック柄のスカートが舞い上がり……これ以上の描写は止めておこう。


 カチャリ!


 ついシャッターボタンを押してしまった。


 ところで、現代でも魔女が空を飛んでいられる答え。

 先ほど考えていた記憶を消す魔法。それ以外にも、風景と同化するポンチョのようなモノがあるようだ。


「いっ今、撮りましたねっ!」


 黒髪のお下げの子が詰め寄ってきた。

 丸眼鏡の下の顔は真っ赤だ。

 見たことがない顔……ああ、首元のタイの色からして、1個上の上級生のようだ。だが、身長も頭一つ下。顔も幼く、まるで中学上がりたての女の子だ。


 しかし……顔が近い!


「写真を消してっ!」


 先程まで跨がっていた竹箒ホウキを振り回し始める。見たことがない顔……ああ、首元のタイの色からして、1個上の上級生のようだ。だけど、背が低くて中学生のようだ。箒を振り回すというより、箒に振り回されている感じはなんだか滑稽だ。


 そんなに魔女だという事を隠したいのか?

 異種交流が進んでいるというのに、人間同士の隠し事が大事なのか?


「ヘンタイっ! パンツ写した!」


 そっちかよ!

 画面を確認すると、桜色の……


「分かりました、ちゃんと消します」


 そんな興味は……無いわけではないが、ホウキで殴られるよりはマシだ。

 スマホの画面を彼女に向けて、泣く、泣く消去ボタンを押した。


 それでようやく彼女も落ち着いたようだけど……


「ところで、空を飛んでいたの見たんですが……先輩、その辺に関して――」

「――そうだった」


 僕が最後に見たのは、振りかぶったホウキがこちらに向かって来るところだった。



〈了〉

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