第7話 同級生の救世主

 突如現れた救世主。

 印象的な部分と言えば、アホ毛だろう。

 身長は低めな方。

 眠たそうな目だ。

 しかし、しっかりとこちらを見ている。


「ちょ! こいつがやってないなら私が嘘付いたって言いたいの!? 誰とも知らない部外者が! そんな勝手な事を!」


「さっき散々部外者に助けを求めていた人が言う言葉ではありませんね。ですが、貴方は嘘を付いていません」


「え? どう言うことだよ。じゃあ俺が嘘つきって事を態々言いに来たのか?」


「いえ、それも違います。なぜなら、この場に嘘つきは存在しないからです」


 どういうことだ?

 嘘つきがいない?


「それはどういう事よ!」


 しびれを切らしす痴漢の被害者。

 突如現れた少女に向かって行く。


 少女は自分のポケットからスマホを取り出した。

 そして写真を見せる。

 何よりも、動かぬ証拠だった。


 俺の学校の制服は灰色に近い。

 しかし、痴漢の瞬間をドアップで撮影された写真。

 そこには、黒の制服の裾が写っていた。


「は? ちょっ、何これ? 嘘でしょ」


「いいえ、これが真実です」


「嘘よ! あんたは嘘を付いている!」


「なぜですか?」


「だってこんな写真……」


「はぁ……。正直そうは思いたくなかったのですが、やはりですか」


「な、なによ…」


「貴方が言いたい事はこうでしょう? こんな写真撮られないはず。だって、痴漢なんて『うそ』なんだから――」


「―――っ!」


 スマホを持った少女の言葉は、辺に響き渡る。

 被害者、いや嘘つきの女子高生は黙り込んでしまった。

 通行にも、全てを悟ったように、歩き出す。


 そこに駅員が来た。

 騒ぎを聞きつけたのだろう。

 それに嘘つきの女子高生は走って逃げる。


 俺は追う気にならなかった。

 感謝を伝えたかったからだ。

 俺の事を信じてくた少女に。

 俺の為に嘘を付いてくれた少女に。


 しかしいつの間にか居なくなっていた。


 行動早っ!

 けど大丈夫だ。

 制服が同じ学校のものだった。

 いつか高校内で会えるだろう。

 世界は広いようで狭いのだ。



ーーー



 思わぬ事件で時間を食われた。

 だが、予令に間に合った。

 本当にぎりぎりだ。


 俺はダッシュで窓側の自分の席に向かう。


「朝から騒々しいですね」


「あぁ、ごめん……。ちょっと事件に巻き込まれて……」


「奇遇ですね。私も巻き込まれました。いえ、あれは巻き込まれに行った、が正解です」


「へー、そうなんだ」


 走って息が上がっている俺は、目を閉じながら応答する。


 それよりも、『巻き込まれに行った』?

 それにこの声――。


 隣を見れば、救世主の少女が座っていた。


 世界は狭いようで狭い。

 六クラスに分かれる学年の中。

 一クラス四十人の中でまさに二百四十分の一(合ってるか分からない)の確率!


 この日俺は、神、いるんじゃね?

 と、思った。

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