猿の王冠

横淀

猿の王冠

「猿が私の王冠を取ったわ!誰か取り返して!」

 と言われたので私は猿を追いかけることにした。なかなか足が速い。微妙な距離を保ちながら私たちは追いかけっこをした。

 猿は逃げながら

「人間は愚かだ。人間にまともなやつはいない」

 とにやにやしながら口汚く罵る。ふざけた表情の割に、口調が真面目で、真剣に言っているのが伝わってきた。


 どんどん森の奥の方へ連れていかれるといつの間にか私はぐるぐる巻きにされて、そのまま小さな小屋へ連れていかれた。

 中へ追いやられると、外からは全く想像できないほど建物内は大きくて、近未来的な雰囲気をしていた。研究所のような作りで、上が見通せないほど天井が高く、何回層にもなっているらしかった。しかし、よく見ると物のひとつひとつが公園の廃れた遊具のような質感であることが分かった。


「お前はここで働け」

 と言われたので私は了承した。

「お前は水泳部員だ。特別な仕事だ。」

 私は了承した。


 明日までに水着を用意しておかなければならないらしいので、自室で水着を探した。

 しかし、どれだけ探しても部屋には白いビキニ一着しかなくて、みんなが着ていたかっこいい競泳スーツのような水着がない。

 お母さんが勝手に部屋を掃除したから見つからないんだ、と私は泣いた。母のお手製の小さな指人形ふたつを持って、母はなぜ部屋を勝手に片付けてしまうのか、なぜ私が泣いているのに母は部屋に来てくれないのかと、悲しくなった。苦しくなった。


 私は母に構って欲しかっただけなのかもしれない。

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猿の王冠 横淀 @yokoyodo

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