第71話 才能VS努力

 2日後。いよいよ、ベスト4をかけた戦いが始まった。

 ここからは武器を使った真剣勝負。相手を殺してはいけないというルールがあるだけで、競技場から放り出すか、戦闘不能にするか、降伏させれば勝ちである。

 競技者はあらかじめ、高位の神官による『衝撃壁』の魔法を体にかけてもらう。

 これにより、武器による攻撃を受け止める。

 『衝撃壁』には耐久力が設定されており、武器が与えたダメージによって、その耐久力が減っていく。

 耐久力は魔法によって可視化され、競技者の頭の上に表示される。

 これが『0』になるか、競技者が競技エリアから落ちるか、降伏すると勝負がつくという仕組みになっている。

 耐久力の初期値は『300』となっている。

 第1試合は女性ながら、予選から勝ち抜いた女騎士ケイト。

 レディ・ケイトと呼ばれていた。

 持っている武器は『レイピア』である。

 これは騎士として働いているケイトが普段から使っている武器である。

 王国の騎士の標準装備は『ブロードソード』である。幅広で両刃の剣は広く使われている主要武器であるが、女性が使うには少々重かった。

 ケイトは今年で24歳。身長は165cmと恵まれてはいない。

筋力は鍛えているが、標準のブロードソードを振り回すのは持続力の点で不利であった。

 よって彼女は特別に『レイピア』を使うことを許可されていた。

 特別許可されるということは、彼女がそれを認めさせるだけの力があるということである。


(勇者……年齢は17歳。クリムランド王国の大貴族のお姫様と聞くが……)


 心の中でそうつぶやくケイトは対戦相手のアリナのことをよく思っていない。

 よく思っていないどころか、ケイトの目的は勇者アリナを倒すことであった。


(なに不自由ない生活を送ってきたお姫様が、たまたま神の啓示を受けて勇者になる。才能があったからだとは思うけれど……)

「才能だけの小娘に私が負けるはずがない」


 ケイトはレイピアを掲げて祈った。祈る相手は神ではない。

 神は恩恵を授けたアリナに味方するだろう。

 だからケイトはこれまで血のにじむような努力をしてきた自分と自分とともにあった愛剣のレイピアに祈った。


「さあ、才能か努力か……どっちらが勝つか……。レイ……力を貸して」

 

「レイ」とは、ケイトが愛剣に付けた名前だ。

 今は行方不明になってしまったケイトの兄の愛称である。


「それでは戦闘開始ね!」


 アリナも剣を抜いた。

 いつも使っている愛剣ではない。

 聖剣シャイニング・ブレードは魔法防御を無効化するから、相手を殺してしまう恐れがある。

 よって、アリナが手にしているのは騎士の標準装備であるブロードソードである。

 アリナの左足が一歩前に動いたかと思うと、5mはあった間合いが一瞬で詰められた。

 アリナの第一撃は目にもとまらぬ速さでしかも強烈である。

 ケイトは避けきれないと判断した。レイピアで受ける。


「くっ……」


 受けると言っても、まともに剣が当たればレイピアは簡単に折れてしまう。

 それだけ、アリナの剣撃はすさまじいパワーがある。

 ケイトはわずかに刀身をずらし、ブロードソードのパワーを受け流す。

 力の方向を変えることで交わしたのだ。


「さすがベスト8まで残っただけありますね」


 そうアリナは褒めた。

 年上のケイトに対して少し上から目線であるが、実力は天と地ほどあることは周知の事実だ。

 だが、アリナよりも年齢が10も上のケイトからすれば、心穏やかではいられない。

 ましてや、ケイトは勇者との戦うことを目標にこのパンティオンに挑戦したのだ。


「そちらこそ、勇者の名前は伊達ではないようです。これが競技ではなくて実践でしたら、今の一撃で私は死んでいたでしょうね」


 アリナの剣をきれいに受け流したとはいえ、防御魔法の数値は10もマイナスされている。

 魔法で守られていなければ、体にケガを負っていただろう。


(おそるべし……勇者……)


 ケイトはあまりの力の差に心が折れそうになる。

 実戦ならどうがんばっても勝てる要素は1%もない。


(だけど……そんなことは分かっていた!)


 ケイトは一歩踏み出した。

 今度はケイトの攻撃だ。

 勇者がいかに強くても、ルールに縛られるパンティオンなら、勝つ可能性も出てくるかもしれない。

 そのためには攻撃だ。

 防御魔法の耐久力を0にすれば勝つのだ。勇者を倒す必要はない。


「きえええええっ~っ」


 ケイトは腹の底から気合を入れた声を出して、突き攻撃を繰り出す。

 アリナはその攻撃一つ一つに対して、上半身を左右に動かすだけで避ける。


(さすが勇者。普通の人間レベルの技は見切っているということね……)


 ケイトは勇者の動体視力とそれに連動した身体能力に驚きを禁じ得ない。

 攻撃しながら、ケイトの頭の中に幼い頃に兄が語ったことを思い出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る