第68話 激辛大食い対決

「それ行け、まだまだいけるぞ!」

「これくらいは耐えろ~」


 面白そうなので3人はその輪の中に入って行った。

中央には長テーブルが置かれ、そこで4人の男がレッドチキンと呼ばれるこの町の名物料理を食べていた。

 レッドチキンは辛子を中心とした香辛料で味付けされた料理。

 調合された液体に一晩漬けた鳥の胸肉を油で揚げたものだ。

 店によって辛さの度合いは違うが、中には恐ろしく辛い味を売り物にしている店も多い。

 この人が群がっている『地獄の巣亭』は、この町で一番辛いと評判の店であった。

 目の前で繰り広げられているのは、この店で最も辛い『地獄チキン悶絶』の大食い大会なのだ。

 規定時間内に出された唐揚げ肉を食べきれば、賞金が金貨5枚もらえるという破格の催しものであった。


「一皿であの量はないぜ……」


 ルーシーは皿に盛り上げられた料理を見て絶句した。

 赤い色で見ているだけで汗が噴き出る唐揚げが山になっている。

 聞けば一皿で2kgもあるらしい。

 それを3皿食べきれば賞金をもらえるらしいが、合計6kgも人間が食えるわけがない。

 しかもひとつひとつが悶絶級の辛味である。

 どう考えても攻略する人間は皆無だろうと思えた。

 しかし、場は大いに盛り上がっている。

 テラスに設けられた競技会場は酒を飲みながら見物するにはちょうどよく、レッドチキンの普通の奴にかぶりついて、ビールを飲んで騒いでいる。

 一口目で目を回し、汗を噴出す姿にみんな笑い転げている。

 出場者は必死に食べるが、量が殺人的なのとまた辛さも然りなので、1皿食べきった人間が拍手喝さいを受けるのが精いっぱいであった。

 店としては攻略させるつもりはないのであろう。

 しかし、宣伝効果は抜群である。出場者が悶絶して倒れるたびに、客は増え、チキンとビールが飛ぶように注文される。


「おい、お前、リベンジだ!」


 3人は見知った2人を発見した。

 ベスト16に出ていた押し相撲チャンピオンのアケボーだ。

 あの自爆して醜態を晒した巨漢がいる。

 そしてアケボーがえりくびをつかんで引きずり出したのは、村人ネロである。

 かわいそうにネロはおびえて、捨てられた猫みたいな状態になっている。

 ネロも小さい方ではないが、巨漢のアケボーとこうして並ぶと貧弱に見えてしまう。


「なにも格闘しようと言うわけじゃないダス。この辛味大食いで勝負ダス!」


 そうアケボーは大声で挑戦状を叩きつけた。

 周りにいる観客たちは、決勝トーナメントでの2人の対戦を見ていたものが多かったから、大いにはやし立てた。

 アケボーの100%自爆で終わった戦いへの消化不良と自分でも勝てそうな村人ネロへのやっかみである。


「お、おらはそんな辛いのは食べられないべ……」


 真っ赤に染まった唐揚げを見てネロは尻込みをしている。

 それに食べられなかった時の料金は銀貨2枚。

 賞金が入るとはいえ、現在の所持金は心もとない。

 それに銀貨1枚、銅貨1枚でも村の人々のためにもっていきたいのだ。

 こんなところでバカ騒ぎしてお金を失いたくない。


「心配するなダス。お前の食った分はおいどんが払ってやるダス」


 そうアケボーは約束した。

 アケボーの狙いはネロの無様な姿をここにいる集団に見せて、自分の名誉を少しでも回復しようという小物の考えであった。


「……そ……そういうことなら……やるだべ。だけど、終わったら解放してくれるだべ」


 気の弱いネロはか細い声でそう了承した。

 今の状況を断れるほど、ネロの胆力は強くない。


「あの人、大丈夫かなあ……」


 ぽつんとユートが言った。

 ルーシーは嫌な予感がした。

 また、ユートがネロを助けてとんでもないことをしでかすように思えたのだ。

 だが、ユートは見ているだけ。

 行動を起こしたのはその隣で腕を組んでいたクラウディアであった。


「明らかに弱い者いじめですわね。あのデブ男はいじっているだけだと考えているようですけど、胸糞悪いいじめですわ」


 そういうとユートの腕から離れてズカズカとテーブルのところへ上がっていく。


「その勝負。クラウも参加するのですわ!」


 見た目は小さな女の子が2人の大男の対戦に割って入ったのだ。

 この意外過ぎる展開に周りの人間は盛り上がった。

 どう見ても唐揚げ一つか二つしか食べられそうもない少女だ。

 しかもウェーブした黒髪をなびかせた可愛い容姿である。

 それが大食い対決に出るのである。

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