1章 魔狼と付き人少年

第2話 ゾモラの洞窟

 ゾモラの洞窟。

 そこは大魔王アトゥムスの住む魔界への扉を開く封印があるとされる場所。ゾモラ山脈の裾野の一角にある洞窟は、7層にも及ぶ広大なものであった。

 その洞窟の最深部に到達した者たちがいた。

この強いモンスターが大量にいる洞窟に挑み、洞窟を取り仕切るボスの前までたどり着いた者たちだ。

彼らはムーランド王国の騎士たちで、選りすぐった精鋭で心を一つにしてこの洞窟に挑んだのであった。


「予想よりも遭遇するモンスターは少なかったな……」


 そう騎士団長はそう疑問を口にした。ここにたどり着くまでに感じていたことだった。

 何かの罠だとも思ったが、そんな罠に出会うことなく、洞窟の最終ボスの前まで来てしまったのだ。


「ほぼ雑魚モンスターばかりでしたからね。おかげで我々の戦力は大きく失われることなく、ここに至るわけですが……」


 副団長の男もあまりにスムーズにここまでたどり着いたことが信じられないようであった。

 普通はボス戦の前までに中ボス級のモンスターと幾度となく戦い、その度に仲間を失う。そんな犠牲がなかったことは奇跡である。


「まるで先に誰かが我々のためにモンスターを掃除しておいたように思えます」

「はは……馬鹿なことを。一体だれがそんなことをするものか」


 団長は副団長の意見を一蹴する。ボスを残して護衛のモンスターを倒しておくようなお膳立てをしてくれる奇特な存在がいるわけがない。

 それにそんなことができるのなら、今から突入する部屋にいるボスは倒されているはずである。


(そんなことができるとしたら、勇者しかいない。勇者であるなら、ボスを残しておくものか……)

「まあよい。我々全員がここにいることは事実。そして、それは最も理想的な状況であることも事実である」


 団長は自分のブロードソードを抜いて、突入態勢を取る。合わせて周りの騎士も戦闘態勢に入る。

 よく訓練され、回復魔法を使いこなす彼ら騎士は、一人でベテラン冒険者3人と同等と言われるくらいの実力者揃いである。そんな騎士たち30人が突入して、ほぼ無傷でここまで来ている。

 この洞窟の攻略はあと一歩のところに迫っている。この扉の向こうにいるボスを倒せば、王国に平和がもたらされる。そう彼らは頑なに信じていた。

 王国の村や町に被害をもたらすモンスターの出現地は、このゾモラの洞窟なのである。元凶の本丸に戦いを挑む。


「さあ、いくぞ、者ども。この戦いは大魔王を倒す第一歩となる。どんなに犠牲を払おうとも、我々はなしとげねばならないのだ」


 そう言うと団長は作戦を手短に話す。

 突入と同時に支援魔法を味方にかけて、戦力のアップ。

 そして、攻撃魔法の連発。後は体力の続く限り、切り刻む。

 ボスの護衛を左右の10人で倒し、中央の10人はそれまで耐える。

 護衛を倒せば、左右から10人ずつが襲い掛かり、勝負を決する。


(これで勝てぬはずがない……)


 団長は目を閉じた。都に残してきた妻と子供の顔が浮かぶ。家族を守るためにも全力を尽くすのだと心に誓った。


「さあ、いくぞ!」


 団長はそう命じ、扉の向こうへと足を進めた。

 中にはゾモラの洞窟の主、銀狼のロキが待っている。

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