05

「また人形か」


「ああ、今度も上から落ちてきよった。この浴室の上にでも置いてあったんやろ」


「誰がそんなことを…」


「うわっ、よう見たらこの浴槽の中に、びっしり詰まってんで、人形が」


「誰がそないなことを…」


「ああ、もう気味悪ぅてしゃあない。すまん宮上さん、一旦出るわな」


「その宮上さんのことはどないすんねん」


「やっぱり、警察に言うべきやろ。あん時、警察は全く取り合うてくれんかったけど、こんだけのモンがあれば、流石に動かざるを得んやろ」


「せやな…」


「あっ、また音すんで。下からや。ちょっと静かにせぇ」


「…」


「今度は、何かが落ちるみたいな音や。ああ、もう怖いわ」


「やっぱり、その家は普通やないねんて」


「…せやな。もう五年も経ったら大丈夫やろ思たけど、寧ろ悪化しとんのかもしれへん。訳の分からん人形やら何やら…いや、せや言うても、俺は五年前、俺は荷物運んだ時から違和感は感じとったで」


「やっぱり、もう帰った方がええんとちゃうか」


「ああ、俺もそう思てたところや。せやけど、さっきから一階で変な音してるしやなぁ…」


「そうやな…ん?何の音や…?」


「浴室の方から…うわっ!何や、何やねん、お前ら」


「おい、どないした」


「ぎゃああああ!えらいこっちゃ!」


「おい、何が…」


「来んな、何やねん、お前ら…!」


「おい、どうした、凄い音したけど…」


「ドアを閉めたんや。あの人形が、浴室から出てきよった」


「何を言うてんねん、それはほんまなんか」


「ほんまや。懐中電灯でパッと照らしたら、のそのそと出てきおったんや。ほんで、あの片目が、何やおかしな色を…」


「…やっぱり、その家…」


「下からも何か聞こえるで。もしかしたら、下の人形も…」


「動き出すっちゅうんかいな」


「ああ、もうどないしたらええねん。やっぱりこんなとこ入るんやなかった」


「兎に角、早う逃げた方がええ」


「逃げ言うても…あっ!あかん、階段の方まで…」


「おい、大丈夫か?」


「くそっ!こうなったら…」


「おい、どないした?」


「…」


「どないした、大丈夫なんか?」


「…」


「おい、おい」


「…」


「何があったんや、何か返事せえ、頼むから」


「…」


「おい、どういうことや」


「おい、どういうことや」


「…」


「おい?何があったんや」


「パパ。何でここにいるの?」


「何や…?」


「ねえ。パパ達はどこに行っちゃったの?」


「誰やねんな、お嬢ちゃん」


「どうして戻って来てくれなかったの?」


「だから、そないなこと言われても…おい、田村。どないしたんや、田村」


「ママはあんなに優しいのに、パパがおかしくしたんだ」


「お嬢ちゃん、そんなん俺に言うたかて…すまんけど、田村に代わってくれへんか?」


「どうして私を置いていったの?」


「ああ…あかん、あいつらこのドア破る気なんかいな」


「パパはいつから私を嫌いになったの?」


「えらいこっちゃ…ここのドアがやられてもたら…」


「もう会えないの?ずっとこの家で一人で待てばいいの?」


「くそっ…もうやられるしかあらへんのか…」


「何でパパはあんなおかしな目をしてたの?」


「あかん、懐中電灯まで切れてもうた」


「どうしてあんな怖い顔をしてたの?」


「…ん?ここやったらいけるんと違うか」


「ママと何を話してたの?」


「よっしゃ、これでひとまずは安心や」


「どうしてあんなものを持っていたの?」


「ほんで、お嬢ちゃんはどないしてんな、さっきから」


「それで、ママを連れていったの?」


「どないしたんや。いっぺん落ち着き」


「パパはあんなにママのことが好きだったよね?」


「すまん、そんなん言われても、俺には分からへん。ちょっとでええから、田村に代わってくれへんか?」


「…」


「もしもし…?」


「あっ、私の人形に触らないで」


「あかん、ついにあいつら部屋に入ってきよったで」


「パパ?やめてよ。何するの?」


「こっちやったら、ここから隣の部屋に繋がっとんのか」


「それ私の大事な人形だよ?なんでそんなことするの?ねえ、おかしくなっちゃったの?」


「よっしゃ、こっちの扉開いとんで」


「やめて、ねえ、ママ呼ぶよ?」


「よし、何とかこれで…」


「ねえ、何してるの?ほんとに止めてって言ってるよね?」


「おい、そろそろお嬢ちゃんも…」


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