09

「ジャック…?」

窓の外に、僅かにジャックの姿を見たような気がした。


「いるのか…?ジャック?」

少年は慌てて部屋を飛び出した。

ジャックを迎えに行かないと。


玄関を出ると、走り去ろうとするジャックの後ろ姿があった。


「待ってくれ、ジャック。僕だよ」


ジャックは止まらずにひたすらに走り続ける。

少年は必死に後を追う。


「ジャック!」

何度呼びかけても彼は止まらない。


ジャックは生きている。死んだだなんて間違いだったんだ。現に、こうして元気に走っているではないか。

少年は酷く安堵した。


「こら、ジャック、止まりなさい」

少年が息を切らしながら言うと、ジャックは不意に止まったのだった。


しかし、すぐにジャックは動き出し、”家”の中へと入っていく。


そこは、”我が家”だった。


「おやおや、お帰り」

優しい顔で”母親”が出迎える。


「ジャックもお帰り。さあさ、今日は疲れただろうから、中で美味しいケーキを用意しているからね。ジャックには大好きなおやつをあげようね」


「ありがとう、母さん」

少年は玄関扉を潜った。


「今日は食堂に”お客”がたくさん来ているからね。失礼のないようにするんだよ」

食堂には大勢の客達が、テーブルを囲み、食事をしているのだった。


「わあ、美味しそうなケーキだ」

居間に入るなり、少年の好物であるケーキが机に置かれているのを見つけた。

ジャックは床に置かれたドッグフードの皿に飛びついていく。


「こら、家から帰ってきたら、まず手を洗うんでしょう?」

母親にたしなめられ、少年ごめんなさいと手を洗いに行く。


「さあさ、お茶を淹れたからね。お食べ」


いただきます、と言って少年はケーキにフォークを突き刺し、口いっぱいに頬ばる。


「ああ、美味しい。僕、このケーキ大好きなんだ」

母親がそれを聞き、笑顔を見せる。


「喜んでくれて嬉しいわ。さ、どんどんお食べ」


うん、と少年は元気良く言い、次々にケーキを頬張る。

ジャックも美味しそうにおやつを平らげている。


「今日は坊やがジャックの散歩に行ってくれたから、明日は私が行こうかしらねぇ」

母親がジャックの頭を撫でながらそう言う。


「最近、学校は楽しいかい?」


「うん」


「そうかい、良かった。もし辛いことがあれば、すぐに私に言うんだよ」

母親が笑顔でそう言い、少年は大きく頷いた。


まさに、笑顔の絶えない、理想的な家族だなぁ、と少年はつくづく思うのだった。



ピンポーン


ふと、家のチャイムが鳴った。


「あら、こんな時間に誰かしら。ひょっとして、まだ来ていないお客様がいらしたのかもしれないわねぇ」

母親が玄関に向かう。


微かに声が聞こえる。





裕太ー?

ここにいるのかー?

お前がいきなり外に出てくもんだから、びっくりしたんだぞ。





何のことだろうか。少年には関係がなさそうだ。

少年はケーキを頬張る。





「いらっしゃい、お客さん」

母親の声が聞こえる。







ー来ちゃダメだ、父さん。逃げてくれー


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