だい〝よんじゅうなな〟わ【『天才貴公子聖徳太子・の会』の龍馬】


============【徳大寺聖子@思考中】=============


 わたしは変なことに巻き込まれつつある。それでもみんなにこんなに喜んでもらえるならこの『天才貴公子聖徳太子・の会』を作った意味もあるのかも。わたしが巻き込まれた意味もあるのかも。そして最初はみんな腹を立てていたんだろうけど、この学校が突然ルール変更した意義もあったのかも。かも、かも、かも、で無理にじぶんを納得させるだけでわたしは大丈夫なのかな————


====================================



「にーにーちゃん。今日帰り、少しつき合って欲しいんだけど」徳大寺聖子は新見にしきを呼び止め言った。これはわざわざ新見にしきの教室まで出向いてのこと。


「『もちろん!』だけど、なにに?」と喜色を隠そうともしない新見にしき。


「順番としては『なにに?』を確かめてからかな」


「あっ、言われてみればそうでした。それでなにに付き合えばいいの?」


「ちょっとした証人」徳大寺聖子は言った。




                  ◇


 僕はとぼとぼ独り帰り道。

 徳大寺さんは〝にーにーちゃんといっしょに帰る〟のだと言って僕を置いていってしまった。やはり女子グループの中に男子が一人だとこういうことになるか……



「おーぃ」とはるか後方から声をかけられた。振り返ると徳大寺さんとあと一人、にーにーちゃんが走って走ってようやく追い着いたといった感じで僕に並んだ。息を弾ませている徳大寺さんと息を切らしているにーにーちゃん。


「別に後をつけてきたわけじゃないんだけどね」と徳大寺さん。


 いえ、シチュエーションとしては思いっきりつけてますけど、と思うがそんなこと言えるわけがない。それよりなんか嬉しい。


 でも……なんでにーにーちゃんに全力疾走させてまでいっしょにきたものか。そう思っていたことを察したかのように、

「これにはワケがあって……」などと言い出すにーにーちゃん。まるで『わたしはお邪魔みたいだけど』と言ってるかのよう。いや、僕の妄想か。


「いやいいよ。いいよ。すぐ終わるから」と徳大寺さんが言った。


 すぐ終わっちゃうの?


「今川くん、ありがとう」


「いえ、どういたしまして……」


 〝ありがとう〟を言われるほどたいそうなことをしただろうか?


「お礼は明日になったら——時期を外したら——、言いにくくなると思って」と続けて言った。


「お礼?」と僕はそう口に出していた。


 不思議なことを言う。状況から察するに僕の言ったことばのうちどれかが心に刺さったということなのだろうか?


「いえいえ、『ありがとう』はこっちの方で、女子ばっかりのこの会に僕がいられるとは思わなかった。徳大寺さんのおかげだよ」僕はそのように返した。


「なにしろ男子ひとりに女子六人だもんね」

 取りようによってはもの凄く嫌味なセリフを徳大寺さんは口にした。


「ラノベとかアニメでは『ハーレム』とかいうみたいだけど実際いられたもんじゃなくて、やっぱ微妙な距離感があるから。これで総合型選抜入試の書類にも書けるよ」


「いきなり剥き出しの現世利益を語っちゃうかな」


「でもむしろ徳大寺さんの方がいろいろ書けそうだけど」


「会長だから?」


「そう。まあ僕には難しいと悟らざるを得なかったけど」


「誉められているようだけど正直荷が重い」


「そうは言うけどこの会、必ずしも女子の仲良しグループと言えないのも良いところだよね」


「サッカー部を人間関係で辞めた人のことばとも思えませんけど」


「仲が良すぎると居場所が無くなるんだよね」


「さぁ、案外仲が良くなっちゃったりして」


「それだとたったひとりの男子がどんな目に遭うことか」


「女子を信用してないわけ?」


「じゃあ『歴女』って頭の中で書いてみて」


「今川くん、おかしなことを言うよね……」


「なんとなくって一瞬読んじゃわない? 怖いじゃないか」


 くすくすくすくす——にーにーちゃんが笑い出していた。


「魔女なんて言って! 好かれれば天使になるのに」


「僕が女子に好かれると思う?」真顔で言うしかない。


「敗けた人に惹かれる男子ね……正直女子を惹きつけるのは難しいと思う」と前にも聞いた記憶があるセリフを徳大寺さんは言った。だけど続けて奇妙なことを訊いてきた。いや、訊くというよりかは念を押すように。


「わたしは今川くんをけっこう頼りにするからね」


「もちろん!」と咄嗟に答えてしまった。


「そう、ありがと」徳大寺さんは僅かに微笑んだ。


「うっ、うん」

 今のはある種の〝指南〟だったのか? 将来分の『ありがと』を先に受け取ってしまったよう。


「わたしにはこの『歴女の会』がどんな活動をするのかは……正直分からない。『歴史は道具』だと真顔で言うコワイ人もいるし——それを快く思わない人も外にいるし」

 僕はただ黙って徳大寺さんの話しを聞き続ける。


「——ただこの会をくっつける接着剤の役割を果たすのは今川くんのような気がする。薩長を接着させた坂本龍馬のように——」

 そのあと徳大寺さんはひと言加えた。


「ヘンな土佐弁しゃべってるし」


 なんだよ、それっ! それに徳大寺さんはもうひと言付け加えた。


「頼むよ——」


「うん」

 徳大寺さんに頼まれれば、もううなづくしかない。

 一方で変なことも頭に浮かんでいた。坂本龍馬の考える江戸幕府以降の日本の政権構想は必ずしも薩長中心ではなく旧幕府側をも加えたオールジャパンだったという。

 ただアレ、決して実現することが無かったんだよな——だけどやるしかないんだろうなぁ。

 坂本龍馬を——

                  ◇




 そんなことを今川真が考えている傍らで、徳大寺聖子が新見にしきに密かにアイコンタクト。


(〝証人〟ってこういうことなんだ)新見にしきは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る