だい〝よんじゅうよん〟わ【主人公今川真、徳大寺聖子にゲロするよう迫られる】
〝しーずかちゃん〟こと安達さんって、そこにいるだけで場に緊張感をもたらすヒトなのだろうか。こう言ってはナンだけど……
そのしーずかちゃんのファン(?)の比企さんまでがこの応接室という場からいなくなった途端にはじけてしまったヒトが一人。
「わたしファンになりました!」
〝ファン〟という語彙が耳に飛び込んできた。もうその時には徳大寺さんがういのちゃんに両手をぎゅっと握られていた。しかも握るういのちゃんの方も両手で。そしてあっけにとられ握られるままになっている徳大寺さん。
「西郷さんのことここまで理解してくれたなんて!」
ういのちゃんの両手はまだ徳大寺さんの両手を握り続けている。なぜだか顔が紅潮している徳大寺さん。ういのちゃんはどこから見ても美人系美少女だけど徳大寺さんも女子だよね?
「『天才貴公子聖徳太子の会』、わたしはいいと思います」とういのちゃん。
正に福島正則、って言ったら失礼か、山内一豊レベルのいの一番の支持表明。
「ういのちゃん……」と徳大寺さん。
こんな百合百合しい光景、初めて生で見た——
いや、いつまでも見てていいのか——? 目線を切り、切った瞬間に、
「ちょっと今川くん!」と徳大寺さんから声を飛ばされた。
目線を切って気づかれるってどういうこと?
その声で思わず(?)ういのちゃんも手を離していた。徳大寺さんの視線は今度はういのちゃんに——
「あっ、いやそういうわけじゃなくて、むしろ嬉しいけど恥ずかしいというか」徳大寺さんの要領を得ない言いように、
「ごめんなさい。今度から許可をとってからにします」とういのちゃんも要領を得ないようなご返答。
しかし、さっと徳大寺さんは凛々しい表情になり
「今から緊急ミーティングをします!」と宣言した。その視線は再び僕で、まるで僕が言われたよう。
「それは今後の活動内容?」と当て推量で言ってみる。
「解ってるなら早く言ってよね」
いや、割と早く言ったと思うけど。テレ隠しですか。まだ顔が紅いし。
「そういうことならまずわたしから」と、まずういのちゃんが手を挙げた。いよいよ超本気で会長補佐をやりますっ、というそんな感じがする。
「どうぞ」と、ここは徳大寺さんも言わざるを得ない。
「安達さんたちがわたしに投票したことは気にしないでください」ういのちゃんが言った。
「それ、自分ではどう思ってる?」とスルリと割り込んできたのはまとめ先輩だ。
「あぁ、わたしも驚きました」とストレートにういのちゃんが答えた。
「驚いたその先は? 良くも悪くも捉えられるけど」とまとめ先輩。
「悪いとらえ方はなんとなく解るけど、良いとらえ方なんてあるんでしょうか?」ういのちゃんが訊いた。
「ういの、あなたをトップに据えた方が周囲に与える華やかさが違うから。まあわたしは徳大寺さん一択だけど」
まとめ先輩、そらそーかもしれませんけどナチュラルに徳大寺さんを墜としてどうするんですか?
「『悪いとらえ方』の方ってなんです?」この場空気一掃のため僕が介入する。
「安達さんは鎌倉時代が好きなんですよね?」とういのちゃん。
「なにしろ『鎌倉!』だからね」
「執権政治でもやろうとしていたの、かも?」ういのちゃんが答えた。
執権政治、将軍はお飾りでその第一の部下が一番の権力者な政治のこと。
でも……あなたをコントロールするのは不可能じゃあ……と思ったがそんなこと口に出せるわけがない。
「どちらかというとあの二人の名字は北条氏の犠牲者のような気がするけど」と言ってお茶を濁す。
「こういうのがこの会の〝活動内容〟なのかな?」
その少し不思議な発言の主は『天才貴公子聖徳太子・の会』会長こと徳大寺さんだった。
みんなの注目が一斉に徳大寺さんに集まる。しかしその徳大寺さんは僕の方を見ている。なにかを言えと?
「歴史を肴にしてのお喋り以外に活動のしようがないのでは?」
疑問に疑問で返すというのはあまり誉められない応対だが、率直にそう思ったのだからそう言うしかない。
「だけど今川くん、さっきわたしが安達さんとしたのも〝お喋り〟って言える?」徳大寺さんに訊かれた。
「……あれが活動内容なら疲れるよね」そう答えた瞬間自分でハッとした。
「あんなことをこの後も続けられたらこの集まりの雰囲気が悪くなるんだけど」さらに徳大寺さんは続けていた。
「これはカンですが——」とういのちゃんが発言を始める。「——さっきの『聖徳太子いるいない論争』、わたしには安達さんが『聖徳太子いない論』の信奉者には思えなかったんですが」
「どうして?」と徳大寺さん。
「わたしは論争自体は徳大寺さんが押し切ったと思うんですが安達さんに悔しがる素振りが見えなかったんです。ことばは悪いですが徳大寺さんを故意に試したようにしか」
「そんな感じだったよね」とこれにまとめ先輩も同調し、にーにーちゃんも無言でうなづいていた。
そんな中僕は或る考えに囚われていた。
これが〝実践〟だったのでは……、と。
徳大寺さんが訊いてきた。
「この中で安達さんと一対一で話したことがあるのは今川くんだけだよね?」
また僕?
「徳大寺さんが一対一で闘っていたじゃない」
「そういう意味じゃなくて密室での一対一。この部屋でふたりきりでなに話したの?」
お部屋でふたりきりってなんちゅう誤解を招く言い方ぜよ。
えーと、確か確か、そうっ、いやそれ電話で『実は安達さんはね——』って言おうとしてたんだよ! それを徳大寺さんが途中で遮っちゃって! その後すっかり忘れてたけど。
いつの間にかみんなの視線が僕に集中中。
「正直に言ってよね」とじとっとした目の徳大寺さんに念を押されてしまう。
「わしゃあ徳大寺さんに嘘ゆーたこと一度もあらんき」
「マ・ジ・メ、にね」
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