だい〝にじゅうはち〟わ【徳大寺聖子×上伊集院吉乃@密談中】

 外に出るやいなや、

「このままだとケンカになっちゃうから」単刀直入すぎる理由を徳大寺聖子は口にした。


「わたしはまとめ先輩に怒ったり恨んだりしないよ」と上伊集院吉乃は応じる。


 (いや、なんとゆーか、ういのちゃんがそうでも相手がね、怒ったり恨んだりするんじゃないかな〜って発想がどうしてできないかな〜)それが徳大寺聖子が思ったこと。


 押されて押してふたりは応接室のドアからさらに離れる。


「なんというかさ、まとめ先輩は上級生だし、先輩視点だとういのちゃんは下級生で、その手の関係というものがさぁ〜」と徳大寺聖子が言いにくそうに言うと、


「そいは下級生は上級生のいうことをどんなこつでもきけということでおわすか?」と上伊集院吉乃が返す。


 徳大寺聖子は思った。(ちょっとなぜにここで薩摩弁?)

 ふたりはようやく立ち止まる。


「いやそのそういうわけじゃないけど、あのさ、安達さんってどう見てもわたし達に友好的じゃないし、どちらかというと、あっ、あくまでどちらかというとだからね、そのまとめ先輩の言うことの方に説得力があるかなって……どうして、どうしてういのちゃんは安達さんのためにそこまでするのかなって」


 上伊集院吉乃は目を閉じた。


 (なにかを考え始めて……いえ、考えを整理してる?)その心中をうかがう徳大寺聖子。


「まず勘違いの無いように言っておくでごわす。別においは優しいというわけではごわはん」


「……どうして薩摩弁? になっちゃうのかな?」


「そうね、これは単なる照れ隠し。あなたがわたしを勘違いしているのがなんとなく分かっちゃったから」


「え……」


「わたしはね、あの安達さんって人が他人に思えなくて」


「えー⁉」

 (なんでういのちゃんはわたしをそんなに見つめてるのっ⁉)


「また勘違いしてるみたいね」そう言うと上伊集院吉乃ははにかんだように微笑む。


「べつに親近感を抱いているとかそういうのじゃなくて、まるでわたしみたいだなって思っただけ。偶然だけど髪型とかまで同じだし」


「どういうところが?」


「なんというのかな浮いてるところ」


 (ういのちゃん、浮いてるの? とは訊こうとしても訊けない。でもたぶん……間違いなく浮いているんだろう)と思う徳大寺聖子。


「正直ね、顔に出てるよ徳大寺どん」


「いっ⁉」


「わたしは考えてることとか他の人と違っちゃってるし、もちろん違っているからわたしは特別だなんて思わないわよ。むしろ逆で、どうしてみんなわたしと同じように考えてくれないんだろうって思うだけ」


「はぃ」


「なにかあの安達さんにもわたしと同じ臭いを感じる」


「そ、そうかな?」


「うん、そう。だからそんな安達さんを否定するってことはわたしがわたしを排除してしまうような気がして……」


 (わたしはすご〜く嫌な考えが頭に浮かんでしまった。それはやっぱり……いや、この思考は中断すべきだ)とメランコリーな徳大寺聖子。


「あの、ういのちゃんはもし安達さんがわたし達と行動をともにしなかったらどうするの?」


「答えは同じ。わたし達だけが学校公認になるわけにはいかない」


「それは安達さんの行動しだいでは終わっちゃうってこと?」

 (たぶん終わって欲しくないって、もうわたし思っているんだ……)


「なにが終わるの?」きょとんとした顔で上伊集院吉乃は尋ねた。


「いや、みんなで集まるの……」


「学校公認じゃなければ集まれない、というわけでもないと考えているのだけれども……」


 (そうか! そうだよねっ! たったいまさっき中断した思考は杞憂だった。ういのちゃんはこの集まりそのものを潰そうなんて思ってない!)

「ようやくういのちゃんの考えが分かったよっ‼」


「ありがとうっ」そう言うと上伊集院吉乃はぎゅっと徳大寺聖子の両手を握った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る