【百合洗脳】~想い出は書き換えと共に~

楠本恵士

百合洗脳①

 その女子高校生は、クリーム色の壁とクリーム色の天井の部屋で椅子に後ろ手を縛られて拘束されながら、目の前で機器のダイヤルを回している白衣コートの若い成人女性を睨んでいた。


 女子高校生は数時間前──帰宅で一人、学校の正門を出て。

 数分間歩いた歩道で道路脇に停車していた漆黒のライトバンから飛び出してきた。

 数人の男たちに車内に引っ張り込まれ拉致されて、ここに連れてこられた。

(ここどこ? あの白衣コートの女の人誰?)


 女子高校生は車内では目隠しをされていたが。

 車体の振動具合や男たちの少ない会話から、山道を走って目的地に向かっていたコトはわかった。

 目隠しをされたまま、車から降ろされ。

 建物の中を歩かされ。

 椅子に座らされて後ろ手に縛られた時に、初め目隠しを外された。 

 部屋の中で白衣コートの女性が男たちに、封筒に入った謝礼のようなモノを渡すと男たちは部屋を出ていき──現在の状況に至っている。


 男たちがいなくなると、白衣コートの女性は無言で部屋に置いてある、機器の調整のようなコトをはじめた。

 やがて、機器の調整が終わったらしい女性が、テープルの上に置いてあった電気ポットから。

 陶器のカップに注いだコーヒーを飲みながら、呟く声が女子高校生の耳に届く。

「準備OK、我ながら手際の良さに感心する」


 コーヒーを飲みながら椅子に縛られた女子高校生に近づいた女性が。

 女子高校生の全身を視線でナメ回す。 

 女子高校生は、カタツムリに全身を這われているような感覚の、女性の視線にゾッとする。

 白衣コートの女性が言った。

「インスタで見るよりも、実際は数倍も可愛いわね……素敵よ宇花」

 いきなり、自分の名前を言われた。高校生の宇花うかは驚く。

「どうして、あたしの名前を? あなた、いったい誰?」

「あたしの名前は羽美はみ……人間の脳内、特に記憶を専門に研究している科学者よ」

「科学者?」

 羽美が怪しい笑みを浮かべながら言った。


「あたし百合レズなの……タチもネコもどちらもOKの」

 百合だと聞かされても、ノーマルな宇花にはなんの興味も起きない。

 宇花の反応が薄いコトに、羽美は肩をすくめる。

「やっぱり、宇花はノンケね……インスタする時は、学校の正門を見ながら自撮りしない方がいいわよ……宇花の瞳に写っていた学校名で、通っている学校がわかったんだから」

「いったい、何が目的なんですか! あたしを家に返してください!」

「用事が終わったら、すぐに返してあげるよ……そうね、あたしの計算だと三時間くらいで完成かしら」

 羽美は、怪しげな機器と電極コードで繋がった、自作のゴーグルサンバイザー型ヘルメットをテーブルの上から取り上げた。

 目の部分が黒いゴーグルサンバイザーで被われ、口の部分が見える──まるで戦隊ヒーローモノに登場するような、ヘルメットだった。

 怪しげなヘルメットを持った羽美が言った。

「これを宇花に被せる」

 恐怖に絶叫する宇花。

「やめてください! 怖い!」

 コードがついたヘルメットを被せられ、外れないように顎ベルトで固定された宇花の目元がゴーグルで隠される。

 これから何をされるのか恐怖の宇花に、羽美が科学者口調で説明する。


「あたしの研究で、人間の記憶や想い出は電気的なデータに変換できて。内容を書き換えられるコトが判明している──これから、宇花の脳を使って、それを実証する……宇花は真正の百合になるのよ──記憶を書き換えられて」

「やめてください! あたし、百合になんてなりたくありません! 嫌です!」


 宇花の哀願を無視して、羽美は装置を始動させるパルス的な電子音が被せられたヘルメットから聞こえ。

 宇花は頭の中を虫に、いじくられているような感覚を覚えた。

「あぁぁぁあぁぁぁ」


 羽美の声が、脳内に霧が広がってきた宇花の耳に届く。

「脳波同調完了──記憶領域侵入開始」

 宇花の脳は催眠波に犯され、記憶の改ざんが開始された。

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