出戻り勇者~訳あり勇者は久々に異世界へ~

猫町大五

第0話

「や、止めてくれ!!命だけはっ!!」


 この言葉も、いかんせん聞き飽きてしまった。ただ、別に言葉筋自体に文句がある訳では無い。その言葉がそれなりに重要度の高い言葉というのも重々理解はしているし、その意味と心情を軽視するわけでも無い。


 ただ、不運な事に――ここは戦場で、仕掛けたのはそちらだ。


 俺は背中のホルスターから、大振りの剣を抜いた。その柄には過剰とも思える装飾が施され、刀身は白銀に輝いている・・・よく分からないが、何か凄い金属で出来ているらしい。結論として、見た目には全く文句は無い。

 が、問題はその性能だ。重くてデカくて斬れない。新人ドワーフが打ち損じた剣の方が遙かにマシだ。――もっとも、本来の使用用途から遠く離れているせいでもあるのだが。


 相手の男、その顔が驚愕に染まる。この男は一般市民であるから、刀剣については詳しくない筈。だが、これだけは例外だ。


「・・・聖剣、だと?勇者が何故、自国民を手に掛ける?!」

「ならばこちらも問おう。何故自国に楯突いた?」

「この下らん王政で、何人の人間が死んだと思っている?知らんだろう!王政の庇護を一身に受ける勇者は!」

「庇護、か。・・・そうであるなら、もっとマシな扱いをして欲しかったもんだな。ああそうだ、言いたい事はそれだけか?」

「は?」


 瞬間、肉の潰れる音がする。全くこれも――飽きたものだ。


 最後に、結論から言えば――革命は成功し、王政は壊滅し・・・そして碌に統制の取れぬまま“共和国“に変わった”王国“は、衰退の一途を辿っていった。


 ついでに、俺も伝説となった。『自国民に聖剣を向けた、卑劣な勇者』として。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出戻り勇者~訳あり勇者は久々に異世界へ~ 猫町大五 @zack0913

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ