『-Blunt-』

淡女

明州防衛編

「権利と義務」その1



もしも、あの時に戻れるなら俺は何をしただろう?


多くの人を道連れにして、犠牲にしてそれでもこの先に夢があると信じた。


これは後悔じゃない、昔を懐かしく思うだけだ。


なあ、お前もそうなんだろ。


「天遊、起きてよ」


まだ夢は終わってないでしょ?


「もう昼か…」


目を覚ますと、日は高く、空は青かった。


天遊と呼ばれる少年が、草原の中で眠っていた。


ここは明州と呼ばれる火の国の領地で、ここは敗戦した国の民が流れて移り住んだ、いわば流刑地のようなものだ。


明州の西端にある役所、太守である楊台ようだいという老人は火の国の役人から税の回収を受けていた。


病を患い、しばらく寝床から離れられずにいる。


「今月の納期は明日までだが、税の徴収ちょうしゅうはどうなっている?」


役人は立ったまま、楊台に尋ねている。


「これ以上の税は、民の暮らしに影響が出てしまいます」


「それは命令に違反するという行為で間違いないな」


「貴様ら移民のものを受け入れた火の王を冒涜するつもりか」


権力を盾に横暴おうぼうを振りまく者ほどたちの悪い者はない。


「わかりました、後4日ほど待ってくれませぬか?必ず用意しますので」


寝床に寝たきりの楊台を見て同情したのか、役人はため息をつきこう言った。


「わかった。しかし、用意できなかった折には、この州の女、子どもを都に献上けんじょうする」


「承知いたしました」


火の国の役人は、変わらず横柄な態度で役所を後にした。


六大国が所有している内陸を中原ちゅうげん、それより外の国(異民族)が所有する外陸を荒原こうげんと呼ばれ、


うち続く戦争や内乱により、彼ら荒原の民はこの地に移り住んだ。


明州の大半の民は、火の国の西側にある西戎せいじゅうの民に属する。


いわば異民族であり、外の世界で生きてきた彼らは、内側に住む者たちとっては、恐怖と醜さを抱く生き物であった。


そんな人の醜い情を政治として利用し、排他はいた的な考えは不平等を生んでいた。


政治的な権利も社会的な権利も彼ら移民には存在しなかった。



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