EP.23
テーブルを拭きながら、涼太は思い出す。今日来店したとある女性の姿を。
涼太自身、何かが引っ掛かっている気がするのだが、何が引っ掛かっているのか思い出せない。
「どこかで、会ったことでもあるんだろうか?」
しかし、何かを思い出す気配はない。
「きっと、そのうち思い出すか……」
涼太は、別のテーブルを拭きながら、今夜の夕食を考えることに、頭を切り替えた。
退院した当初は、母親が夕食を作っていたが、今は入院する前の状態に戻り、自身で夕食を準備している。
「今日は、スーパーが安売りしている日だから、スーパーに寄ってから決めようかな。でも、できれば鮭の塩焼きが食べたいな。あとは、ほうれん草のおひたし」
涼太自身はカフェを営んでいるが、三度のご飯に関しては、和食の方が好きだ。だから、晩ご飯のメニューは、つい和食になる。
テーブルを拭き終わると、ふきんを洗い、いつもの場所に干す。
後片付けを終えると、扉に鍵をかけて、スーパーに向かう涼太。
そんな涼太の前に、猫が一匹通りすぎた。
「あれ、あの猫どこかで……」
しかし、涼太は違和感を覚える。知っている模様とは少し違う気がしている。そして、もう一つ。
「ブーツを履いていない」
涼太は、自分で呟いた言葉に驚いた。猫がブーツを履いているわけがないのだ。普通に考えるとありえない。しかし涼太は、その言葉を自然と口に出していた。
「どうしてだろう? 疲れているのかな?」
そんなことをぼやきながら、スーパーへと向かう。
スーパーでは、鮭の切り身が半額で売られていた。ほうれん草は定価で状態の良いものを見つけた。
欲しいものを購入できた涼太は、上機嫌でスーパーを後にする。
「今日は、麦ご飯がいいな」
鼻歌が涼太の鼻から流れてくる。最近ハマっているアーティストの曲だ。音楽配信アプリで知って、それからほぼ毎日聴いている。
アーティスト自身は、まだそこまで有名ではないが、じわじわと人気が出ているらしく、時々そのアーティストの他の曲がランキングの上位に上がってくることがある。
しかし、ランキングに上がってくる曲は、アップテンポな曲が多く、涼太の好みのバラードではなかった。
鼻歌を歌っているうちに、涼太は自宅にたどり着いた。玄関を開けると。静寂が涼太を包む。
部屋の電気をつけて、買い物袋をテーブルの上に置く。
いつものようにラジオをつけると、ちょうど鼻歌で歌っていた曲が流れ始めた。
「ラジオで流れ出したのか……。じゃあ、売れるのは時間の問題かもしれないなぁ……」
そんなことを呟きながら、塩をつけた鮭の切り身を、アルミホイルをひいたオーブントースターの中に入れ、つまみを回す。じりじりじりとつまみが回る音が始まる。
鮭を焼いている間に、ほうれん草をゆがく準備をする。
ラジオからは軽快なDJの声と音楽が聞こえてくる。
軽快なリズムのおかげか、涼太は、あっという間に晩ご飯の準備を終えた。もちろん、ご飯は、希望通りの麦ご飯にしていた。
「いただきます」
涼太は、手を合わせてそう言うと、ご飯を食べ始めた。
ラジオからは、変わらず軽快な音楽が流れている。夜が少しずつ更けていく。
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