EP.22

 叶奈は、腑に落ちない顔で、道を歩く。曇り空が広がる。

 叶奈は、ぼんやりと考えながら、帰宅した。

 ぼんやり考えつつ、コーヒーとケーキの味を思い出す。素朴で美味しいと、感じた。彼は、終始穏やかな様子で、居心地が良いと思った。

 帰宅して、なんとなく自分でコーヒーを淹れてみる。これじゃないという気持ちが、叶奈を包む。

 あの店の雰囲気。叶奈を包み込んだ空気。すべてに、どこか懐かしさを感じた。


「また行きたいな……」


 叶奈が、ぽそりと呟く。言葉は、空気に溶けた。

 コーヒーを片手に、読みかけの本に手を伸ばす叶奈。ページを捲ると、夢が広がる。幻想的な世界。“ツナグ“という猫がいる世界。

 作者によると、これは現実と記載がある。


「そんなはずないけど、描写がリアルだから、本当にありそうに感じてしまうんだよね」


 そんなことを呟きながら、さらにページを捲る叶奈。作者は、ツナグにブーツをプレゼントしたと書かれている。

 叶奈は、「はて?」と思う。どこかでその話を聞いたような気がしたのだ。


「どこかで聞いたような……」


 記憶を辿る叶奈。しかし、この書籍以外に思い当たる節はない。


「この本は、初めて読むはずなんだけどなぁ……」


 一瞬、叶奈の脳裏に猫との会話がよぎる。


「あれ? 今のは……?」


 ブーツを履いた猫。そして、なぜか思い浮かんだ今日立ち寄った喫茶店のマスター。

 猫と叶奈とマスターと他に二人。猫は、二人のうちの一人ととても親しい様子だった。脳裏に浮かぶ風景。どこか懐かしい景色。


「あれ?」


 次々と浮かぶ不思議な風景。混乱する叶奈。

 叶奈は、更にページを捲る。時計の音が、かちりと鳴る。

ふと浮かぶ、猫の笑顔。青いケシの花。猫にブーツをあげた人の子孫。

 突然、叶奈の脳内の靄が晴れた。

 植物園で出会った猫。道案内をしてくれた猫。猫と一緒にブーツの送り主の孫と会話したこと、猫の住む世界に行ったこと。猫にブーツをあげた人に出会ったこと。

 本の背表紙を見る。背表紙には〝山崎 林太郎〟とある。


「そうだ。この名前だ。林太郎さんだ」


 叶奈の記憶の靄は、完全に晴れた。


「明日、悟さんに会いに行こう」


 叶奈は、靄が晴れたことを嬉しく思いつつ、ぼんやりと窓の外を見た。

 雲の隙間から、天使の梯子が降りていた。

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