EP.17

「あの、つかぬことをお聞きしますが……。私たち、どこかでお会いしたことありませんか? 人違いならすみません」


 彼女の言葉に、涼太はハッとする。『叶奈』という名前と、向こうの世界での会話を思い出す。


「ひょっとして……、あなたは叶奈さんでは……?」


 今度は、彼女がハッとする番だった。


「あなたは、ひょっとして涼太さん……?」


 互いに、向こうの世界での出来事がフラッシュバックする。


「あれから、お互い目が覚めたんですね。涼太さんは、カフェを成功させているんですね。良かった」


 叶奈は、にっこりと笑った。涼太も、にっこり笑い返す。


「おかげさまでこの通りです」

「私も、なんとか今の仕事を続けながら、最近は小説を書いています。と言っても、趣味程度ですが……」


 叶奈は、照れ臭そうに現状を話した。


「へぇ、小説ですか。どんな話なんですか?」


 涼太は、興味深そうに叶奈に問いかけた。


「実は、『あの世界』を題材にした小説なんです。ツナグ君を主人公にした小説なんですけど……」


 叶奈の『ツナグ』という言葉に、涼太は思わず首から下げていたペンダントを握り締めた。目を覚ますと、いつの間にか身に着けていたこのペンダント。ツナグから貰ったことを、今になってようやく思い出したのだった。

 叶奈は、言葉を続ける。


「私は、自分の軸がちゃんとわかったわけではないですが、あの世界に行ったことで、『小説を書きたい』という、幼少の頃からの夢をつき進む決意ができました。涼太さんはどうですか?」


 叶奈の言葉に、涼太は一瞬詰まる。


「僕も、自分の軸は見つけてはいません。しかしやはり、カフェをしたいという夢を突き進む決意はできたように感じます」


 涼太は微笑んで、部屋の奥を見つめた。叶奈もつられてその視線を辿った。そこには、青いケシの花が置いてあった。花は、あの時と変わらず、綺麗に凛とした姿で咲いていた。


「あ、この花は……」


 叶奈が、言葉を発する。


「そうです。ツナグの家に置いてあったあの花と同じ種類の花です。同じものを探すのに、苦労しました」


 叶奈は、返事もせずに、じっと花をじっと見つめる。


「あの……。叶奈さん?」

「あ、あぁ。ごめんなさい。ツナグとのやりとりを思い出してしまって……」


 叶奈が、微笑む。涼太もつられて微笑む。

 二人の間に、ゆったりとした時間が流れる。いや、二人の間だけ、時間が止まっているようにも見える。

 じっと、見つめ合う二人。


「すみません」


 不意に、他の客が涼太を呼んだ。


「あ、はい。お伺いします」


 どこか、名残惜しそうに離れていく視線。叶奈は、窓の外へと視線をわざと逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る