この異世界は手相が重要だなんて聞いてない!
紫 和春
第1話 転生
それは雨が降りしきる日のことである。
とある大通りの交差点にて、信号無視した軽自動車と歩行者による衝突事故が発生した。
信号無視した軽自動車は、現場の悲惨さを目の当たりにすると、そのまま走り去ってしまう。
一方、歩行者の方は全身打撲に加え、全身のいたる所を複雑骨折し、内臓から血が出ている状態だった。
このままでは助かるものも助からない。周囲の人々が救急車を呼ぶように叫んでいる。
そんな状況で、被害者の歩行者は冷静になって現場の様子を眺めていた。
あたりには大量の血。自分の腕はあらぬ方向に曲がっている。そして呼吸ができない。
本当なら、全身を耐えられない程の痛みに襲われているのだろうが、なぜか痛みを感じない。
それどころか、意識がだんだん遠のいていく。
それは、まさに天に召されるかのように。
「起きてください。あなたにとって、死は早すぎます」
その瞬間、目覚めた。
彼は起き上がり、状況を整理しようとする。
「ここは……」
「ようやく目を覚ましましたね、寺門陵介さん」
そう言われた彼――寺門陵介は、ゆっくりと立ち上がって声をかけてくる存在にコンタクトしようとする。
「あなたは……?」
「私は地球で言う所の女神に相当します」
「その言い方は、まるで自分が地球にいない女神のような存在だと言っているようなものですね」
「察しがいいですね。これなら魂を捕まえた甲斐があったものです」
「魂?」
「死の直前のことを覚えていませんか?あなたは車と衝突して即死したのですよ」
その瞬間、寺門に襲い掛かる死の瞬間の映像。
思わず吐き気を催してしまう。
しかし、それ以外は自然と冷静にいられた。特に、ひどい交通事故であったにもかかわらず、痛みなどは感じなかった。
なんとかして吐き気を抑えて、寺門は女神に質問する。
「僕は、どうなったんですか?」
「簡単に言いますと、あなたはあの交通事故で死にました。しかし、私の判断で、死ぬには早すぎるとして、地球の世界からこちらの世界に来てもらいました」
「こちらの世界?」
「はい。地球とは異なる世界。異世界です」
異世界と言えば、今はラノベなどでは必ずと言っていいほどの題材である。
そんな異世界に呼ばれたのかと、寺門は思う。
「突然のことで混乱していることかもしれませんが、時間ならたっぷりあります。現実を受け止めてください」
「それなら問題はありません。今、この状況を認識している以上、受け入れざるを得ないですからね」
「話が早くて助かります。それに、あなたが異世界に行くのには理由があります」
「理由……ですか?」
「はい。あなたの身の周りで、何か奇妙なことや幸運なことは起きませんでしたか?」
「奇妙なこと……幸運なこと……」
そう言われて、寺門が思い出したこと。それは幼少期のことだった。
当時、小学校で行われた抽選会のようなもので1等の自転車を当てたことや、全国規模での懸賞でゲーム機を当てたこと、また高校の同級生と行った廃墟で心霊現象を体験したことなどが思い出される。
「それはあなたの手相に、そのような現象に合いやすいものがあるからです」
「手相?」
そういって寺門は自分の手を見た。
しかし、これまで強く手相に興味を持ってこなかった寺門にとっては、何がどう意味するのか分からなかった。
「あなたの手相のような人はスピリチュアルなことに敏感であるとも言われています」
「しかし、これが異世界に行くのと何の関係が……?」
「私が管轄している世界では、手相によって使える魔法が異なるのです。ある人の手相では火属性が強いとか、ある人では水属性に特化しているとか……。そういった魔法の違いに影響するのです」
「それだけの理由で異世界に行かせるのですか?」
「もちろん、それだけではありません。単純に、あなたはまだ長生きできるからと判断したからです」
「確かに。まだ高校生ですし」
「私の管轄する異世界は、中世ヨーロッパ風ですが、現代日本人でも結構生きやすい環境が整っているんですよ」
「そうですか……」
「そんな紹介はあとにして、どうしますか?」
「どうしますか、とは?」
「実際に異世界に行くか、それともこのまま死ぬか。あくまで本人の意思を尊重します」
ここまで言われてきて、今更あっさり死ぬことはできない。
そう考えた寺門の決意は決まっていた。
「もちろん、異世界に行きます」
「あなたならそういってくれると信じてました」
そういって女神は、寺門に近づき、頭に手をかざした。
すると、手のひらから光があふれだし、やがて収まる。
「今、何を?」
「異世界の言語を理解するための魔法をかけさせてもらいました。これで、異世界に行っても言葉は問題なく話せます」
「わざわざありがとうございます」
「では、そろそろ異世界に行く準備をしますね」
そういって女神は地面に魔法陣を描き出す。
「手相がすべてではないんですね」
「手相はあくまで魔法陣の代理みたいなところがありますからね」
そういって魔法陣を完成させる。
「これで問題なし。異世界に行く準備はできました」
それを言われた寺門は、そのまま魔法陣の上に乗る。
「それでは、よき異世界ライフをお送りください」
そういって女神は力を込める。
すると、魔法陣が輝きだし、寺門は意識を失った。
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