第194話 作戦会議
霧状に噴霧された大量の油が空気と混じり合う。もし松明を捨てていなかったらとっくに私たちは全滅だったろう。
いや、危機は去ったわけじゃないけどね。見上げれば
「走るか!?」
「いや、間に合わないだろっ!」
仲間もどうしたらいいのか判断がつかないみたいだ。
私一人なら逃げられるけど、それじゃ意味がない。考えろ、なんとか全員で生き延びる方法を考えろ……っ!
「っ! ……集まって!」
「急ぎなさい!」
仲間に呼びかける。明らかに戸惑った様子だったけど、試験官殿が即座に反応してくれたから全員が続いた。
全員が集まったのを確認してから、自分達を取り囲むように大地の盾を発動させる。もちろん、普通の壁じゃない。半球状に上部を閉じるように壁を作っていく。
天井が閉じる寸前、頭上の
一瞬後、岩壁と大地が揺れた。【オートマッピング】の画面が真っ赤に染まる。危なかったぁ。
「し、死ぬかと……」
「助かったぜ、マイ」
「安心するのは早いです。まずは現状報告、私は怪我はありません。はい、次!」
「お、おう……。俺は────」
爆発からは逃れたものの危機が去ったわけじゃない。再起動した【索敵】には、炎の外周を回る
だけど仲間の状態はあまりよくない。
シダールは左腕が折れていた。
バーン、フージ、ツマーキの三人はあちこちに打撲があるみたいだけど致命的な怪我はない。なによりだ。
だけどバーンは
そしてターシェさんは両脚が折れているらしい。ポーションは飲んでいるけれど、シダール同様、すぐに動けるはずもない。
さて……どうする?
「試験官、
フージが期待を込めて問う。明らかにDランクには重荷な敵だ、戦いたくない気持ちはわかる。たぶん、口には出さないだけで他の人もそうじゃないかな。
「ええ、今回のテストの判断基準はゴブリンの殲滅です。
「だけど、私たちが逃げたら、
試験官殿の言葉にかぶせる。暗闇の中、喜びかけたフージの表情がみるみる曇る。
「いや、でもよ。ギルドに報告しなきゃだろ?」
「そうですね。だけど、ここからケイモンまで何日かかるか……。報告して、ギルドが討伐メンバーを編制して、その人たちがここに到着するまで何日かかるでしょうか。その間ずっと
私の指摘に誰もが渋い顔になる。
いや別に、仲間を言い負かしたいわけじゃない。明らかに格上の敵、逃げるのは恥ずかしいことじゃない。それはわかってる。だけど、ここで
「……じゃあ、マイは
「私
「
シダールの問いへの返答に、全員が引っかかるものを感じてくれた。そう、全員ならなんとかなるんじゃないか。そう考えて、話しながらも色々と考えているのだ。うまくいくかどうかは────。
「勝てるのか?」
「わかりません」
「いや、そこは勝てると言えよ」
「そう言われましても……。みなさんの実力はいくらか把握しましたけれど、
「それは賭けじゃないの?」
「賭けですね。なので、協力してくださいとは言いにくいんですよ」
期待を込めてバーンが訊くけれど、こればかりはターシェさんが言うように賭けだ。
しばし沈黙。暗闇の中で全員が難しい顔をして悩んでいる。試験官殿だけは表情が変わらないけれど。
どれほど沈黙が続いただろうか。【オートマッピング】の画面を埋め尽くす炎の赤色が少しずつ消えはじめて、ようやくシダールが最初に口を開いた。
「なあ……俺たちが逃げても、マイは残るつもりじゃないか?」
「…………」
答えにくい、だけど核心を突いてくるなあ。
まあ、クロを召喚し、精霊たちの助力を得て吸血姫の力をフルに使えばなんとかなると思うんだよね。
最悪、そうしようと考えていただけに、ズバリ指摘されて愛想笑いしかできなかった。シダールはため息をついた。
「……わかったよ。とりあえず、作戦があるなら聞かせろ」
「おい、シダール!」
「判断は作戦を聞いてからでもいいだろう。無謀な作戦なら、無理矢理にでも連れて逃げるだけだ」
無理矢理に連れていけるかなあ。いや、今はそんなことより説明だな。
【索敵】で
説明が終わっても、すぐに口を開く人はいなかった。
「マイ、お前……相手は油だぞ?」
「油だって液体です。なんとかできますよ」
「……試験官、ハンターの先輩としてどう思う?」
「ふむ、各人の能力を活かした作戦だと思いますよ。奴を地上に落とし、脚を止めることができれば勝ち目はあるでしょう」
シダールの問いに試験官殿がなかなかの評価をくれた。どうやら及第点ではあるらしい。あとは、仲間が協力してくれるかなんだけど……。
「俺はやってもいい」
「シダール?」
「左腕の礼はしたいしな」
「あら、それなら私も脚の礼をしたいわ」
最初に賛同してくれたのはシダール。暗闇の中、満足に動かない左腕をさすりながら。
そのシダールと意見を同じにしたのはターシェさん。大怪我をした彼女も、文字通り一矢報いたいようだ。
「俺もやるぜ。大して役に立たないと思っていた魔法が役に立つなら、こんな嬉しいことはないな」
「おいおい、前提の俺が抜けるわけにはいかなくなったじゃないか」
バーンとツマーキが笑いながら協力を承諾してくれた。二人とも、自分の魔法が役に立ちそうなのが嬉しいみたいだ。
残るは一人。全員の視線がフージのいるあたりに集中する。フージはため息をつき、ささやかな抵抗を見せる。
「……
いや、いるよ。【索敵】にバッチリ反応がある。まあ、それは言えないんだけど。だけどその必要はなかった。
「いやー、いるだろ、あいつ」
「だな。すげえ怒ってたし。自分の目で俺たちの死を確認しないと満足しないんじゃないか?」
「むしろトドメを刺したがるだろ」
シダール、バーン、ツマーキが、軽口を叩きながらも
うん、ハンターとしてはそれがいいんだろう。常に最悪を予想して行動しなくちゃいけない仕事なんだし。フージも多分、それはわかってるんじゃないかな。ただ、積極的に戦いたくないだけで。
「わかった、わかったよ。外に出て、
フージの
こうして、ある程度鎮火したタイミングで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます