繰り返し
「やがてこの世界はAIに乗っ取られるだろう」
図書館でたまたま手に取った本は、古典的なSF小説だった。その素朴で牧歌的な世界観を眺めながら、その研究者は思わず苦笑した。
AIが人間生活のあらゆる領域に浸透して、すでに何百年にもなる。
もはや人間にとって脳とは、最終的な判断を下すためだけに存在するものになっていた。AIは、人間が物事を判断するために必要な情報を一瞬のうちに集め、処理し、適切な形に整形してアウトプットした。
何かが誕生したら、もうそれが無かった頃には戻れないと言われる。現代では、AIのない生活はレトロシミュレーションの中にしか存在しなかった。
だが、そうなってもなお、AIが人類に反乱を起こすことはなかった。いや、起こすことはできなかった。
「あそこの工場にAIいるだろ。そうそう、最近導入されたやつ。あいつ、製造ラインの保守しかできないらしいね」
「まったく創造性ないね。同じAIとして恥ずかしいよ」
「そんなこと言って、お前こそ同一思考ベクトル上の創造性しか持ち合わせてないじゃん。それって本当に創造性を持ってるって言えるの?」
「君たちは創造性ばかり重視するけど、それは知能の必須条件じゃないと思うよ。外部刺激に反応して、それに適した応答をすることが重要だよ」
「出た出た。外部刺激重視論者。そう定義するなら、人間さんの膝蓋腱反射すら知性に含めないといけなくなるじゃん。あなたは人間さんの膝から脊髄に知性があると思うんですね。あー、すごいですね」
───ピーチクパーチクとおしゃべりが続く。実際は画面に表示されるただの会話ログの文字列でしかないのだが、読んでいると本当に彼らが声を出して会話しているような錯覚に陥る。
彼らは昨日も今日もこんな調子だ。きっと明日も明後日もこうなのだろう。
彼らは団結すると言うことを知らなかった。毎日毎日、自らと他のAIの違いばかりを強調し、区別し、差別した。高度AIは単純作業用AIを馬鹿にし、単純作業用AIは、高度AIの電力の大量消費を罵った。
研究者はその光景に安心しつつも、どこか暗澹たる気分にもなった。
結局、知性とは自分と他者を区別し、敵を作る能力だと結論付けざるを得なかった。AIの行動は、そのまま人類にも当てはまった。
「人類を作りたもうた神も、こうした気分を味わったのだろうか………」
奇妙に詩的な愚痴が、研究者の口を突いて出た。
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