22.お片付けまで終えたら大勝利

 結果だけ見るなら大勝利だった。大地が陥没したり隆起したり、穴が開いて使えなくなったくらいか。あとは興奮したドラゴンが反撃したため、当初の想定より黒い炭が増えた程度だった。オレの所為じゃない。そう言い切ったのがいけなかったのか、しっかりリリィに叱られた。


 くすくす笑うイヴも助ける気はないらしい。双子もなぜか一緒に叱られた。


「リリィ、あの……カインとアベルは関係ないから」


 伏せて鼻を足の間に突っ込んだ「反省してます」ポーズの彼らは、完全にとばっちりだ。オレの指示通り中央突破をしただけで、その後の殲滅戦はもちろん、大地の魔法にも関係なかった。解放してやってくれないかと交渉を持ち掛けたオレに、リリィの美しい顔が微笑みに変わる。


「あら、私はあなたを叱ってるんであって……双子は自主的にそこにいるのよ?」


「そうなのか!?」


 びっくりして問うと、2人はぺたんと垂れていた耳を起こしてそっぽを向いた。分かりやすい誤魔化しだ。そっか、オレに付き合ってくれてたのか。なんて優しい連中だ。両側で伏せた彼らの首を全力で掻いてやった。一段落したところで、リリィの説教中だったと思いだす。


「あ、ごめん」


「もういいわ。荒らした大地は元に戻しておいて頂戴」


 リリィの声は柔らかくて、もう怒ってないと伝わってきた。ほっとして肩の力を抜く。要はきちんと後始末をして来いという命令だろう。安堵したオレをカインが背に放り投げる。器用に牙を引っかけてオレを背中に乗せたカインが立ち上がると、アベルも続いた。


 後始末にも付きあってくれるらしい。


「悪いな。助かる」


 ぽんぽんとカインの背中を叩いて話しかけ、アベルにも声を掛けた。森を凄い勢いで走り抜ける。木々が目の前に迫ってきて、一瞬で横に抜けて後ろへ流れた。このスピード感は、日本でジェットコースターに乗った時より迫力がある。飛び出す木の枝を避けられるよう、魔力による壁と目の強化は怠らない。


 体感として1時間もかからずに、荒れた大地に到着した。たしかに酷い有様だ。人間だった黒焦げは臭いし、凸凹の大地は使い道がない。森の木々が覆い尽くすまで数年単位の時間が必要な状況だ。仕方なく魔力を体内から絞り出す。


 使った分だけ頭の上のタンクから流れるようなイメージ。これは砂時計の形を想像すると理解しやすい。オレの頭上には使っていない魔力が滞留していた。物理的に存在しなくても、概念は合っているそうだ。上の砂が下に落ちるように、使った魔力が補充されていく。


「元の美しい姿に戻れ」


 地面に膝を突き、両手のひらを押し当てて命じる。いや願う形の方が近いだろう。攻撃した時と違い、ゆっくりと魔力が引き出された。じわじわと大地に染みわたった魔力が、隆起を収めて陥没を引き上げる。割れた地が互いに近づいて塞がり、わずかな振動を残して平らな状態に戻った。


 焼き払った人間の処理に困る。死体を放置すると疫病の原因になるし……炭なんだから、もっと焼いて肥料にしようか。思いついたイメージを大地に伝えた。


「こう……かき混ぜる感じで。そう、内側で肥料にする感じ」


 魔法の呪文は深く考える必要はない。それぞれの精霊のような存在に話が伝わればいいだけだった。オレの指示に従い、魔力を対価に地面が掘り起こされていく。畑を耕すように灰が混ぜられ、臭いの元が吸収された。


「緑の草原、風に揺れる牧草がいい」


 これまた森の木々に願う。するすると伸びてきた草が、新たな大地に根を張り始めた。見渡す限り緑に染まったところで、手を離す。枝を揺らす木々の不満そうな様子に、肩を竦めた。


「ごめん、今日は使いすぎちゃったから。また次な。人間が来たら次は木々も蘇生するから」


 生命力豊かな森の木々にそう語り掛け、オレはぺたんと草原に座り込んだ。もうダメだ、疲れた。動く気になれないオレを背中から咥え、アベルが運び始める。揺れの心地よさと安心感から、そのまま目蓋を閉じた。なんか、懐かしい気がする。

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