15.化け物上等、光栄だぜ

 退屈しのぎに、死体の首を落としていく。転がる首を数えながら、生き残りに気づいた。仲間の死体の中に転がっていれば、目立たないと考えたのか? 死体の首を落とすオレに気づいて、慌てて逃げ出そうとした男の足を蔓で掴む。黒い森は魔族に優しい。いつの間にかオレも同族認定されたらしい。多少の魔力を対価に、森は簡単な手伝いを買って出た。


「うわっ、化け物だ! 化け物!!」


 化け物で結構。人間に怖がられるのは光栄だね。にやりと笑ったオレが口の中で小さく風に命じる。あの首を落とせ……すぱんと首を落としたところに、人間達が入ってきた。蔓に足を取られた男の首が刎ねられ転がる様に、びくりと足を止める。


「何をっ……」


「お前は?」


 数はおよそ20人、装備は騎士というより兵士に分類される。だが馬に乗った先頭の男は騎士だな。身のこなしや偉そうな態度から貴族と見当をつけた。


 右手の指を振って、またひとつ死体の首を落とす。もう逃げ出す奴がいないなら、残りは全部死体か。手慰みに、相手の戦闘能力を計りながら首を転がした。積み上げた死体の下から首を落としてきたので、残る首はすべて死体の上を転がり落ちる。


 失敗したな。これなら全員生かしたまま積み重ねて、泣き叫ぶところを切断してやればよかった。人間に恐怖と苦痛を返すのは、もう義務みたいなもんだし。


「答えろ! 子爵閣下のお言葉であるぞ」


「……子爵? あっそ」


 子爵を生かして送り返せば、恐怖を喧伝する役目には使えそうだ。でも爵位が微妙なんだよな、握りつぶされそうな気もする。それならそれで、別の貴族を同じ目に遭わせればいいか。まだ先は長いんだ、焦る必要はないな。


 立派な鎧を着て、見目のいい馬に跨る子爵はまだ若かった。どこかの伯爵やら侯爵の次男とかだと助かるんだけどね。立ち上がったオレは、ぽんと埃を叩く仕草をする。足元の死体は崩れそうだが、バランスを取って人間達を見下ろした。


「お前は何者だ」


「魔王の代理、とだけ……」


 意味ありげに言ったものの、心の中で失敗したと呟く。やらかした。カッコいい名乗りを考えておくべきだったな。帰ったらアベルやカインも呼んで、リリィ達と相談しておこう。魔王の代理で森を守る者と認識してもらえば、おおよそ間違いない。


「なぜ死体の首を落とす」


 疑問の多い奴だな。眉を寄せて足元の死体の山を見下ろした。


「先に魔族の首を落としたのは、コイツ等だ」


 やられた分をやり返しただけ。どこかで止めないと負の連鎖が……なんて陳腐な説教は不要だ。やられっぱなしで俯く時期は終わった。堂々と言い切ったオレの態度に、子爵と呼ばれる騎士が馬から降りる。マントを揺らして死体に一礼した。


 うわっ、こりゃ面倒くさいタイプのお坊ちゃんだ。死者には礼儀をもって、とか言い出す奴じゃないか。それで死体を足蹴にしたオレを成敗したいんだろ。どこかでありそうな騎士道精神が脳裏で踊った。


「先に手を出したのは人間の非だが、ここまで」


「やり過ぎとでも? 後から全部終わったところに来て、よく言えたもんだ。性的にもてあそぶために少女の両親を殺して、未成熟な体を犯す連中に――アンタ、同じことを言えるのか?」


 驚きに目を見開いた騎士に、オレはさらに続けた。


「食料にするわけじゃなく、魔石目的で生きたまま魔獣の腹を裂く奴らだぞ? 死体になってから首を斬られるくらいで、文句言われたくないね」


 吐き捨てたオレの辛辣な嫌味に、集まった人間達は顔を見合わせた。その中に数人、居心地悪そうにしている連中がいる。あの辺はこの村から逃げた奴か。

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