13.救出が最優先だ

 村の入り口にある木製のゲートをくぐった。突然現れた人間にパニックを起こす村人が、武器を手に襲って来る。よその村の人間かも知れないのに、攻撃を仕掛けるってことは……まともな奴らの村じゃないんだろう。罪人やどこかから逃げてきた連中が集まって作った村だ。その辺の事情はオレに関係ない。


 重要なのは、魔族を虐げたこと。殺したこと。その上で捕らえられた獣人や魔獣の種類から判断できる、利用方法の下衆さだった。動きやすさを重視して軽装のオレを、組みしやすいと判断したのか。大柄な数人が取り囲む。


「何の用だ?」


「この村に来た理由は」


 口々に尋ねる彼らに答える義務はない。両手を広げて留めようとする彼らを無視して、再び歩き出した。オレが向かうのは、兎獣人の少女と魔獣が捕らえられた村の奥だ。


「おいっ」


 伸ばされた腕が肩に触れる前、オレは一歩足を引いて体を捻る。触れ損ねてバランスを崩す男の足を払い、腕を掴んで捻りながら地面に叩きつけた。


「ぐぁあああ!」


 折れた腕の激痛に喚く男の口を、蹴飛ばして塞ぐ。歯が砕けてこぼれ落ち、大量の血が溢れ出た。まあ、頭のケガは必要以上に血が出るものだ。冷めた感想を抱くオレと逆に、周囲は剣や槍を持ち出した。危険人物として排除対象に格上げされたらしい。


 白いシャツに革のベスト、同革のパンツを履いたオレは身なりがいいガキに見えたことだろう。日本人はこの世界で若く見えるようだ。成人前後の若者一人で乗り込んだオレを、嘲るような態度は変わらなかった。


「風、切り裂け」


 複雑な呪文を考えるのが面倒で、その都度適当に作り出す魔法が、風の刃を生む。剣のように手に持って戦う必要はなかった。指差すだけでいい。獲物を指定すれば、魔力がそこへ走る。目の前の槍を持つ大男の腹を裂き、返す刃で左隣で剣を振りかざす男の腕を落とした。


 逃げた者は放置し、向かってくる人間を斬り刻む。オレを包む魔力が渦を巻き、獲物をバラバラに捻じ切った。どちらの死に方が楽か。オレに触れることもできず、人間の死体は山と積まれた。


 悲鳴と怒号、逃げ出す連中の足音が混じって騒がしくなる。血塗れの地面を踏みしめ、オレは無言で進んだ。斬りかかる連中を文字通り血祭りにあげながら、村の奥にある木製の檻に到着する。


 衣服を剥ぎ取られ、裸体を露わにした少女は項垂れ、この騒動にも動こうとしなかった。膨らみ足りない胸が僅かに上下し、彼女が生きていることを示している。隣の檻に閉じ込められた魔獣は、オレを見て唸った。当然の反応だ。


 ぐるるっ、喉を揺らして唸るオレに目を見開き、魔獣は大人しく伏せた。カインやアベルに教わった会話方法だ。魔獣ならほとんど共通の言語を持っていた。人間とは違うだけで、彼らもきちんとした文明を築いてきたのだ。


「砕けて道を作れ」


 木製の檻に手を触れて命じる。それだけで魔力により変質した木々は従った。自ら道を作るべく、砕けて地面に散らばる。足を踏み入れた檻の中で、少女がようやく顔を上げた。


「ひっ……いや」


 涙の跡が残る頬に、新しい涙が溢れる。がたがたと震える少女の足は流血の痕跡があった。性欲処理に使われたのだろう。彼女にこれ以上近づくのは良くないか。風を使って、拘束する縄を切る。それからオレは収納した道具の中から選んだマントを、彼女の上にかけた。


「悪いが、女性服は持ち合わせていない。それを巻いてくれ」


 リリィかイヴが一緒なら持ってたと思うが、今回は双子との行動なので女性服はなかった。今後のために持ち歩くべきだろうか。一歩間違うと女装趣味の変態だが。


 マントの中で震える彼女に背を向け、魔獣達を解き放った。ぐるると喉を鳴らし、オレの足に頬擦りして感謝したあと森へ向かって走り出す。それを見送ったオレは振り返り、マントを上手に巻いた少女に手を差し出した。


「自分で帰れるなら自由にしてくれ。無理なら魔王城まで送ろう」

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